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第5回 じゅんさいぷるぷるぶるるんの涼味、じゅんさいを愛でる向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト) 食いしん坊は切手にも思いをこめるものだ。わたしは、夏は岐阜の鵜飼の絵柄の切手を愛用している。先日は、同じことを考えた友達から、うれしい切手を貼った手紙が届いたので、ポストでそれを見つけたとたん、こおどりしてしまった。 切手には秋田特産のじゅんさいを摘む人々が描かれていた。じゅんさい池に小舟が何艘も浮かび、手拭いで頬かぶりし、麦わら帽子をかぶった女性たちが舟から身を乗り出して、みんな水面に手を突っ込んでいる。わたしは昨年、秋田に出かけ、同じように摘ませてもらったことがある。突然、そのときの水の匂いと、池の周りでケロケロ鳴く蛙の声が鮮やかによみがえった。 じゅんさいはスイレン科の多年生植物で、水中に地下茎を伸ばし、水面にスイレンそっくりの葉を浮かべる。この茎も、新芽も、開く前の巻いた葉も、もちろん若葉の裏側までも、寒天質のぬめりで覆われている。このぬるぬるとろとろがじゅんさいの魅力だ。ぷるぷるのなかにはカロチン、カルシウム、ビタミンなどが豊富に含まれている。栄養のことまで知ってか知らずか、ご先祖たちは縄文時代以来大好きだったようだし、万葉集や古今和歌集にも詠まれている。 当時は、ぬなわ(沼縄)と呼ばれていて、じゅんさいという呼称は江戸時代からのようだ。各地にじゅんさい池があったが、じゅんさいは清らかな水の湧く池や沼でしか成育できない。どじょっこやふなっこのいる自然環境でなくては生きられないのだ。そのため産地がどんどん限られてしまい、現代では秋田県北西部の三種町が生産量日本一になっている。米づくりをやめた田に、白神山地からのきれいな水を引き込んでいるので、じゅんさい栽培にうってつけなのである。 じゅんさいは都会では貴重品扱いのうえ、巻きのしっかりした小粒しか売っていないが、三種町には成長段階の違うさまざまなサイズのじゅんさいがある。地元の人にとっては身近な野菜なので、町の食堂では大ぶりなものが鶏鍋にもうどんにもそばにもどかどか入っている。じゅんさいは大形になるほどぬめりも多いので、おいしさもひとしおである。 わたしは酢の物や天ぷらでも試し、巻きの固い新芽のうちは若い香味があり、成長するにつれおおらかな風味になることを知った。なんだか人間に似ている。とらえどころのないぷるぷる感といい、水の匂いをそのまま固めたような風味といい、じゅんさいは大人にならないとわからない美味なのである。わたしも年齢ばかりでなく、ようやく大人感覚が身についてきたので、この夏は蛙の声を思い出しながら、じゅんさいをさまざまに味わってみたい。 |
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