そばの散歩道


第6回 なす

紫紺色とさわやかな食感がきりっと涼を誘う

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 暑さ疲れには、なすのぬか漬けで一杯やると生き返る。なすは油と相性よしなので、田楽や炒め物にすればスタミナづくりにもいい。先日もデパートのおかず売場で、水なす漬けや揚げなすガーリック風味が飛ぶように売れていて、わたしもつられて買ってしまった。

 泉州水なすをぎゅっと絞ると水が滴るように、なすは90パーセント以上が水分。だが、高血圧予防のカリウムや食物繊維が多く、体熱をとる機能もある。この季節になすが欲しくなるのは、体の自然な欲求なのである。

 なすはエッグ・プラントという英名のとおり、卵形で紫色という先入観がある。ところが実際には、丸っこいのや長いの短いのといろいろで、サイズも大、小、極小とさまざま。色も白、緑という品種まである。

 わたしは旅先の道の駅やスーパーで見つけるたびに試してきたが、色はやはり紫紺色が落ち着く。紫色の源は抗酸化作用や老化防止効果のあるアントシアニン系色素だし、歌舞伎の助六好みの江戸紫の色が効いてこそ、漬物も天ぷらも魅力的に見える。

 形でいうと「丸」組は泉州水なす、京野菜の賀茂なす、新潟の巾着なすなど。掌からはみ出すほどの「大長(おおなが)」組は博多長なす、久留米長なすなど。もちろん、丸も大長も料理法を問わない万能選手である。

 チビなすは漬物で本領を発揮するようだ。ピンポン玉大なら山形・庄内地方の辛子漬けで知られる民田(みんでん)なすが代表。鶴岡の月山(がっさん)パイロットファームの製品は、ひりひりつーんの自家製和辛子にくるまれているので、一粒でご飯が一膳すすむくらいだ。食べた後、胃のあたりから涼風が吹いてくるのが快感。

 小さくて長いのは宮城県の仙台長なす。七夕見物で味を覚えた方も多いだろう。7月から9月半ばまでが旬である。伊達政宗が朝鮮出陣の際に博多から持ち帰った長なすが改良されたようで、よろいをはじめ派手好みの政宗なのに、なすに限っては控えめサイズになったのが不思議である。

 仙台長なすは大人の小指ほどしかない超ミニだが、そのぶん、風雅なうまみがぎっしり詰まっている。とくに大崎市で環境保全型農業による米で酒づくりに取り組む「一ノ蔵」の長なす漬けはおいしい。社員が無化学肥料で栽培し、無添加で塩漬けにして、隠し味に特別純米酒を加えて味を調えているからである。

 みょうばんの効果でいっそう鮮やかになった紫の薄皮を噛むと、しなやかでジューシー。お供には一ノ蔵の冷酒がいいに決まっているが、この蔵は、発泡酒のすず音をはじめ低アルコール酒がとてもレパートリー豊富なので、飲めない向きでも心配ない。




カテゴリトップへ戻る   そばの散歩道トップへ戻る

copyright(c)1998-2010(社)日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会