そばの散歩道


第8回 ぎんなん

熟すにつれ、実は緑から黄金色に変わる、ほろ苦くてむっちりした美味

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 夏の終わり、銀座のナイルの二階でインドカレーを食べ終え、窓の向こうに目をやったら、街路樹のイチョウに実が付いていた。葉は青々しているのに、葉陰ではぎんなんがしっかり成長しているのだ。生きている化石といわれるように、イチョウは恐竜時代から繁っていた植物。それが平成の銀座で、しかも歌舞伎座近くでさりげなく実をつけていることに、わたしはあらためて感動した。

 銀座7丁目にある諸国漬物の「銀座若菜」には、ぎんなんの味噌漬けがある。ゆでた実の薄皮をむいて味噌床に漬けたもので、吟味された実が味噌のうま味を吸い込んで、おつ。むっちりした食感に続いて、ほろ苦みが広がるところがぎんなんの身上で、大人にしかわからない味覚である。ぎんなんを加えて熟成させたぎんなん味噌や、ぎんなんアイスクリームが登場しているのは、世に大人が多くなったせいかしら……。

 走りの青い実は翡翠のように冴えた緑色だ。軽く割れめを入れて殻ごと塩炒りすると、弾けた隙間からちらっとのぞける緑の美しいこと。味のほうも、1粒2粒で十分満足できるくらいに濃いし、勢いがある。

 ただし、ぎんなんはカロチン、ビタミンC等を含むものの、強い質の食べものなので食べ過ぎは慎めという説もある。量は自分の身体と相談したほうがよさそうだ。

 イチョウは雌雄異株の植物で、受精した雌花だけが実をつけて、完熟すると落下する。イチョウ並木の樹下で拾う手もあるが、臭いとしかいいようのない匂いにたいがいの人はめげてしまう。そのせいもあるのか、最近は品種改良された大粒が新潟や愛知で盛んに栽培されている。実が取れるまで20年近くかかるそうだから、ぎんなん栽培には根気が不可欠らしい。

 今年のめっけものは、新潟の料理研究家・小林瑠美子さんからいただいたもの。郷土料理ののっぺいは必ずぎんなん入りだから、新潟人はぎんなん好きなのだろうか。

 さて、届いたぎんなんは北蒲原郡聖籠町の斉藤芳男さんが育てたもの。超大粒なのにも驚いたが、包装もとてもユニーク。皮を除いて水洗いした殻付きの実が濡れたまま袋詰めされていて、ガス抜きの空気穴まである。普通は、からからに乾いた状態で入っているものだが……。ここに斉藤さんの工夫がある。

 「ぎんなんは野菜と同じ生鮮食品。時間が経つと食感、色、味がすぐ落ちる。そこを消費者にわかってもらいたくて、外種皮を洗ったら、即パックして発送しているんです」

食べきるまでは冷蔵庫で保存してほしいとのこと。ということで、わたしの冷蔵庫はいま、ぎんなんで満杯なのだが、そうそうたくさんは食べられない。つらいところだ。




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