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第9回 ゆず青から黄へと色づくほど、上品な酸味と豊かな芳香が高まる向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト) 中国から伝来したことを感謝したいものはたくさんあるが、ゆずもそのひとつ。この柑橘がなかったら、さんまの塩焼きも、松茸の土瓶蒸しも締まらない。九州の名香辛料・ゆずこしょうも生まれなかったろう。 ゆずドリンクで村おこしに成功した高知の馬路村も、過疎のままだったかもしれない。だいいち、高知城近くの名物日曜市は、ずっと前からゆず、ゆず、ゆずのオンパレードだ。新鮮なゆずが芳香を放っているほか、搾り汁を瓶詰めにした「ゆのす(柚の酢の意)」も山のように並んでいる。 「ゆのす」はどれも農家自家製だから、ラベルは手書きだし、瓶も素朴な規格品。いかにも手づくりらしい風情がかえって楽しい。そして、高知の人はあらゆる料理に「ゆのす」を使う。ゆず果汁にはクエン酸主体の酸がたっぷりだから、酢のものやすし飯がちゃちゃっとできるのだ。 という具合に、ゆずの話題は尽きない。いかに日本の食生活に浸透しているかがわかる。でも、身近すぎるせいか、わたしもゆずをよく観察したことはない。 そう気づいて虫眼鏡で観察してみたら、これがおもしろい。表皮から透けて見える粒々が、まるで思春期の男の子のニキビみたいに並んでいるのだ。実はこれが芳香の源。油胞といい、リモネンやピネンなどの精油成分を含んでいる。ゆず皮に包丁を入れると香りが立つのは、この油胞がつぶれるせいである。ゆずは皮までフルに使うのが賢いのだ。 皮にはカロチン、ビタミンC、葉酸、食物繊維も豊富。といって、皮をそうそうたくさんは使い切れないから、皮ごと実をざくざく切って砂糖と合わせるゆず練りをつくってはどうだろう。甘さの奥にゆず特有の苦みがあって、ブランデーやウイスキーにもよく合う。 また、九州人はゆずの扱いの名人で、丸ごと刻んで塩漬けにし、唐辛子の塩漬けとともにすりつぶしてゆずこしょうにする。ゆずこしょうをご存じない方がいらしたら、ぜひともお試しいただきたい。 そういえば、能登の輪島にはダイナミックに皮を使った逸品があった。丸ゆべしである。名前のとおりゆずを丸ごと無駄なく使うもので、へたのついた側を少し切り取り、中をくり抜いて、いわゆるゆず釜の形にする。その中に、もち米の粉、しょうゆ、砂糖、水あめを混ぜたものを詰め、へたで蓋をしてじっくり蒸しあげる。それをよく乾かせば出来上がり。薄切りを舌にのせると、ほろ苦くて、ほの甘くて、お茶によし、酒によし。冬日がこごったように玄妙な味である。 ニキビ面をしていても、大人の味に変身するとは、ゆず君もやるものだ。 |
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