そばの散歩道


第13回 菜の花

花は黄一色、食用は緑の蕾、心で春を味わえる健康野菜

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 いっときはエディブルフラワーと呼ぶ洋風の食用花がスーパーの棚を賑わしたものだが、最近は菜の花、わさびの花など、和風の食べられる花が注目されている。いちばんの代表は菜の花。箸先でつまめる愛らしさといい、さ緑の色合いといい、春の先取りにうってつけの食材である。

 だから、料理人はまだ冬のうちから椀種や茶碗蒸しに用いるし、客のほうも早春を告げるほろ苦みに舌鼓をうつ。蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」の句や、「菜の花畑に入り日うすれ……」の唱歌が、日本人みんなの記憶に刷り込まれているから、いっそうおいしく感じられるのではないだろうか。

 菜の花はアブラナ科で、大根・白菜・キャベツ・野沢菜・芥子菜も仲間である。4枚の花弁が十字形に並ぶ十字花植物で、菜種油を搾るための作物。江戸時代から盛んに栽培されてきた。

 菜の花が野菜として認知されたきっかけがおもしろい。京都の漬けものになったからである。知恵者の漬物屋さんが昆布風味の塩漬けをつくったところ、上品な味と愛らしさで人気をとったらしい。祇園あたりから口コミで広まったのかしらん。一方、関東では房総半島の農家が、切り花と養蜂用だったものを野菜として出荷したのがはじまり。

 菜の花は野菜としても優秀だ。カロチン、ビタミン、ミネラルが豊富だし、蕾(つぼみ)にはストレス解消や疲労回復に効くホルモンまで含まれている。天候不順で心まで揺れがちな春先に食べるのは、気持ちの健康にかなっているのである。

 そこで、黒潮に洗われる南房総の突端、白浜町へ出かけてきた。わたしは黄一色の世界ばかり予想していたのだが、案内されたのは鮮やかな緑の畑だった。

 農家の奥さんが「食用は蕾がいのちで、花が咲いたら商品価値ゼロ。味は落ちるし、茎も堅くなりますから」と、教えてくれた。

 だから、蕾がふくらみ出したら、すぐに折り取って背中の籠にぽいぽいと。家に帰れば、1束200グラムにきっちり束ね、紙で巻いて長さをりそろえるという夜なべ仕事が待っている。菜の花がけっこういいお値段なのは、この手間賃が加算されているからである。

 でも、最近は、ばさっと袋詰めにした割安な菜の花も売られている。もちろんわたしは、鮮度と安全性さえ確かめられるなら、茎や葉がたっぷり付いたこちらのほうが好きだ。




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