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第14回 そら豆爽やかなグリーンも、ほっこりの食味も、初夏を実感させる野菜の極めつけ向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト) 初夏を実感するシーンはいろいろあるが、おおかたの江戸っ子は相撲観戦でそら豆の塩ゆでをつまむのが好きだ。露地そら豆の出盛りは国技館の夏場所の頃なのだ。かつての東京のそら豆は、近場の千葉・房総半島産が定番で、神田のやっちゃば(野菜市場)には穫れたてがすぐさま運び込まれた。そら豆は「そら豆三日」と言われるほど、鮮度落ちが早いからである。 そら豆はマメ科の一年草。空豆、天豆、蚕豆などさまざまな表記が、それぞれ特性を表している。空豆や天豆は莢(さや)が空や天へ向かって育つ意味だし、蚕豆とは莢の形が蚕の繭(まゆ)に似ていて、豆が実る時期がちょうど蚕の成長期と重なるためにあてた文字らしい。このほかにも四月豆、五月豆、雁豆、雪割豆という異名もある。九州では唐豆や胡豆と呼ぶので、北アフリカや西アジア原産のそら豆が中国経由で渡来したことがわかる。栄養的には、たんぱく質、カルシウム、ビタミンB群などに富む。 最近のそら豆は、季節を先取りして九州産、四国産が東京までやって来る。昭和30年代に鹿児島で栽培が始まり、はしりの食べものが大好きな東京人に大受けしたのだ。房総でまだ莢が小さい頃に、鹿児島では桜島の噴煙を背景にしながら大きな莢が天を仰いでいるのだから、これは仕方がない。 そら豆を収穫するタイミングは莢の向きが目安。内側の実が熟して重たくなると、莢が俯(うつむ)いてくるのである。そして、純白のうぶ毛のベッドに納まった実を莢から取り出したら、即、塩ゆでにするのが鉄則。わたしが産地で教わった食べ方は、むきたてを直火で網焼きにしたり、莢ごと網にのせて蒸し焼きにする方法。たったそれだけのことなのに、ほっこりのどかなうま味が口いっぱいに広がるから不思議だ。 酒のつまみには素揚げに塩ぱらりっやかき揚げもいいし、醤油と砂糖で煮ればほくほくの煮豆になる。乾物のそら豆を煮たものをお多福豆と称するのは、形が愛嬌のいいお多福美人そっくりだからである。 香川県の郷土料理・醤油豆は、焙烙(ほうろく)で煎ったそら豆を熱いうちに唐辛子入りの醤油にじゅっと浸し、味を含ませたもの。香川のそら豆は小粒が特徴で、お遍路さんの接待メニューとしても好評という。そして、そら豆は夏が近づくと産地は東北地方へ、7月には北海道に移る。さながら初夏前線といったおもむきである。 |
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