そばの散歩道


第15回 あなご

ふんわりやわらかくて香ばしい、すし、天ぷら……万能の人気食材

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 なぜかあなご嫌いには会ったことがない。大好きで、すし屋でも天ぷら屋でも、あなごを注文するという人ばかり。特に女性に多いようだ。藤の花が咲くころが旬で、ぬるりと黄金色に光る体に脂を貯えて一段と太る。

 あなごはウナギ目アナゴ科の海水魚。細長い円筒形でうろこがないのはウナギと同じだが、側線に竿秤の目盛り(秤目)のように白い点が連なっているのが特徴。「はかりめ」の異名をもつゆえんである。

 わたしに「はかりめ」という呼び名を教えてくれたのは、東京湾の富津の山金水産社長・平野正明さん。網元の家に生まれ、活魚を築地魚河岸まで運ぶ「江戸行き」の船長を務めた。やがて海苔漁師になったが、埋め立てのせいで廃業し、水産加工もする魚屋に転進した方だ。いわば内房の海の大将である。

 平野さんが愛してやまないのが目の前、東京湾で揚がる江戸前あなご。羽田沖のあなごに負けちゃいないよと、胸を張る。

 「瀬戸内はじめ各地のあなごを食べてきたが、うちら富津の地ものがやわらかくて、味があって最高だと思う。20センチぐらいの若いめそっこはとりわけうまいよね」

 そんな実感をもとに開発したのが、白焼きと醤油味の上総焼き。活けをすぐ背開きにし、網でじゅうじゅう焼いたものだから、ふっくらなのにかりっと香ばしい。わたしは取り寄せで楽しむのだが、温めるとどちらも身がほわっとほぐれ、焼きたての味が甦る。

 まずは白焼きを塩、またはわさびをつけて肴にし、ご飯には辛口蒲焼風の醤油味のあなごをお伴にするのがきまり。どう食べる場合にもきゅうりのせん切りを添える。「あな・きゅう」は本当に相性がいい。

 あなごは昼間は砂地に潜んでいて、暗くなるとぬめぬめ動きだす。それで、たこ壺の要領であなご筒を仕掛け、もぐり込んだところを引き上げるのが伝統漁法である。でも、近年は海底をごっそりさらう底引き漁が普及したし、輸入ものが本家以上に幅をきかすなど、あなごの世界も波乱含みのようだ。

 ともあれ、あなごの「はかりめ」=計り目がうつったのか、わたしはあなごの味で店のレベルを値踏みすることにしている。もっとも、好物のことゆえ、いつも点数が甘くなりがち。くやしいことに、たとえまあまあの味でも、ほわっと舌をくすぐられる心地よさにほだされてしまうのだ。もしかすると、あなごには女蕩しのホルモンがあるのかもしれない




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