そばの散歩道


第17回 そうめん

土地ごとのお国ぶり“めん”は数々あれど、手延べそうめんに味は極まる

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 そうめんが大好きだが、うどんも好きだ。稲庭うどん、五島うどん、氷見うどんが気に入っている。これらのうどんは、なんのことはない、そうめんと同じ原料、同じ方法でつくられている。いわゆる“手延べ”で、生地を少しずつ引き延ばしていって細くするのである。太めに仕上げればうどんになるし(稲庭は平たくのすという工程が加わる)、細くすればそうめんとなる。

 そうめんの細さの点では、わたしの知る限りでは、熊本県の南関そうめんがすごい。針の穴にも通るのではないかと思う。実際に作業風景を見せてもらったのだが、ある程度の細さに延ばしためんを長い箸で左右に広げていき、最後には物干し台に竿のように−いや、糸のように掛け渡して、さらに箸を操って細く細く延ばしていくのである。

 そうめんは奈良時代に中国から伝わり、奈良の三輪から各地へ伝播していった。その過程で太さや、手延べに用いる油の種類(ごま油、椿油など)が工夫され、それぞれのお国ぶりの味ができあがった。

 龍野、島原、小豆島、大門……名産地をいろいろ回ったが、どこでも手延べの技法をきちんと守り続けていた。製法自体は単純で、小麦粉を塩水でこねて円形に延ばし、渦巻き形に切って太い紐状にする。これを2本の棒にあやとりのように引っかけて、ねじりを加えながら延ばし、今度は棒の間隔を少しずつ広げて、そろりそろりと引き延ばしていくのである。

 だが、小麦のグルテンから生まれる弾力を見い見い、延ばし、乾かし、表面に油を塗るなどの気遣いは年季と根気がなければとてもこなせない。それに、夏の食べものなのに厳寒期に製造したものほど貴ばれる。乾燥した寒気で一気に干せば干すほどめんに小麦粉のうま味が定着するからだ。

 だからこそ、夏、ゆでるだけで風味がよみがえるわけだし、細くてもしっかりしたコシで喉を心地よくくすぐるのである。そうめんは保存がきき、料理法もたくさんあるから、離島や不便な土地の暮らしには必需品になっている。沖縄料理のそうめんチャンプルーが近年、各地で見られるのは、それだけ日本中でそうめんを常備しているからだろう。

 夏のそうめんは薬味だくさんにして、冷たいつゆで啜れば味も栄養も完璧。その一方で熱いだしでにゅうめんに仕立て、一味や柚子こしょうでたぐるのも暑気払いにうってつけだ。

 ゆでたそうめんが残ったら、ざくざく切ってきな粉をまぶし、あんこを添えてぜんざい風にするといい。これは、南関そうめんの齢百歳近いおばあちゃん主人に取材で教わった。いまだにあの温顔が懐かしい。




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