そばの散歩道


第19回 里芋

山のヤマイモに対し、里で育つから里芋。おいしいぬめっ"感は郷土料理でも大人気

向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト)

 農水省が選定する「農山漁村の郷土料理百選」のインターネット投票で断然一位だったのが山形県の芋煮。川原で鍋を囲む秋の風物詩、芋煮会の主役料理だ。芋とは里芋のことで、牛肉、長ねぎ、舞茸などを加え、醤油味で煮込めば出来上がり。

 歯にすーっと通り、ぬめっとした食感が広がる風味は里芋ならではのもので、体も心もほっとくつろげる。一億総おくたびれのうえ、先行きの見えない時代に、こんな癒しのテイストが好まれるのは当然だろう。里芋はインドからマレー半島にかけてが原産地。日本へは縄文時代にもう伝わっていて、山の芋であるヤマイモに対し、里で育つため里芋という名になった。大形の八つ頭や、京都の海老芋も仲間である。

 どれもねっとりした食感が共通。これは多糖類のガラクタンがたんぱく質と結び付いて生まれる粘りである。京都のおばんざいの一つ、海老芋を棒だらと煮た芋棒。ゆでた里芋をあんこやきな粉でくるむ富山の里芋おはぎ。山椒味噌やえごま味噌で味わう栃木県塩谷町の里芋田楽。どの名物料理も、芋のぬめりがあってこそ一段とおいしくなる。

 これは山形の芋煮でも同様。そもそも芋煮は秋の芋名月に新芋の里芋を供えた農耕儀礼に由来するそうで、初物の試食会と慰労会を兼ねていたらしい。また東北では岩手、宮城などでも行われている。

 山形だけが全国区の知名度になったのは、最上川舟運の船頭の大好物だったとか、材料の棒だらが牛肉に置き替わったなどの芋煮の出世伝説のおかげだろう。また、県をあげて日本一の大芋煮会を開催したり、何百人分もつくれる超ジャンボ鍋を各地へ持参してのイベント宣伝が功を奏したともいえる。

 わたしが忘れられないのは山形の里芋産地、新庄市の泉田川の川原で体験した芋煮会。泉田川流域は川砂の堆積した土壌が里芋栽培にぴったりだし、長ねぎもよく育ち、最上牛の産地も近い。芋煮は地産地消のメニューなのだ。

 川原には相撲部屋のちゃんこのような大鍋がセットされ、泉田里芋生産組合の面々が待っていてくれた。鍋をのぞくと、皮をむいた里芋、斜め切りのねぎ、牛肉の薄切り、ちぎった舞茸とこんにゃくがごろごろざくざく。お互いにうま味を吸収しあい、醤油色に染まっている。最初にほおばったのは、もちろん里芋。ねっとりとろりほくほくっ。

 ああ、今年も食べに行きたいものだ。




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