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第23回 あんこう吊るし切りでおろす、ぐにゃぐにゃの美味魚。本場・茨城県の「どぶ汁」は豊潤なあん肝仕立て向笠千恵子(フードジャーナリスト、エッセイスト) あんこうは江戸時代以来、珍味とされてきたようだ。とろりくにゃりぷりんほこっ、とさまざまな歯応えがあるというかないというか、不思議なおいしさに満ちている。それでいて、味に品がある。コクがあって、豊かなのだ。コラーゲンたっぷりという実感もある。 国産あんこうは茨城県沖が本場。深海魚である。魚体は平べったく、ぶよぶよぐにゃりとしている。つまり、形があるようでない魚だから、おろすときは吊るし切りにする。下顎に鉤(かぎ)をかけて吊るし、口に水を注ぎ入て重石にするのだ。皮を剥いで順にさばいていき、「七つ道具」に分ける。肝(きも)「肝臓」、とも「ひれ」、ぬの「卵巣」、柳肉「身、ほほ肉」、水袋「胃」、えら、皮。合計七つである。骨以外は食べられるし、どこもおいしいというわけだ。 さらに至福のときを過ごすなら、「どぶ汁」に尽きる。これは本場の茨城県でも一部の店でだけ食べられる鍋で、肝から出る肝油でつゆがどぶろくのように濁っているのでついた名前。大洗海岸にある大洗ホテルの青柳裕料理長は、この漁師料理が大得意である。 まず生の肝を鍋に入れて、へらでつぶしながらから炒りにする。肝から脂がじわりと染み出したら、あんこうの身をどさっと投げ入れ、大根、白菜、ねぎなどを加えてゆっくり火を通す。オレンジ色の肝油が浮いてきたところで、味噌で味を調える。なお、水や酒などは一切加えず、野菜の水分だけで煮るのがコツである。 いかにも濃厚すぎるように思えるが、味は案外にさっぱりしていて、具材と肝の豊潤さがみごとなコクになっている。 あつあつを、ふうふうやりながら、地元の月の井酒造店の「和(な)の月」と一緒にいただくのがおすすめ。そして、これは私見だけれども、あんこうは身よりも、それ以外の部分をしゃぶるほうが一味もふた味もまさるように思う。だから、わたしは、行儀悪く食べてもいい、と自分を許す主義だ。 大洗ホテル社長の竹内順一さんには「どぶ汁は精の強い鍋ですからね、ほどほどに食べてください」と釘をさされたが、わたしは聞こえないふりをして、何度もお代わりしたうえ、最後はおじやで締めくくった。残り汁にだしと卵を加えたシンプルなものだが、鍋あとにちょうどいいまろやかさであった。 なお、鍋ができるまでの間は、あん肝でちびちびやるといい。あんこうの肝を酒蒸しにしただけの肴だが、フォアグラに匹敵する美味と称賛する人もいる。でも、わたしは日本酒との相性ではあん肝が断然上だと思う。 |
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