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懐かしのイカ焼きそば発酵学者・エッセイスト 小泉武夫
日曜日の昼前、書斎でスルメイカのことを調べていたらば、暑い日なのに突如として焼きそばが食いたくなった。食いしん坊のこの味覚人飛行物体、常にさまざまな食材にキーワードを組み込んでいて、例えば、ひき肉と言えばテーブル胡椒、それがハンバーグへと通じる。もみのりは紅ショウガに通じて食酢からちらしずしへいく。野良ネコを見るとすぐさま鯖の水煮の缶詰にいき、そしてぶっかけご飯にたどり着く。頭の中での連想回転速度はおそらく百分の一秒ぐらいであろう。 で、スルメイカがなぜ焼きそばにいったかというと、昔、田舎の食堂や夏祭りの屋台などで食った焼きそばには、どんな店であろうと必ずといっていいほどスルメの足が細かく切って入っていた。今は豚肉のコマ切れを入れるのがほとんどのようだが、昔はスルメの足であって、それがまた素朴感を呼び、実に美味であった。安いソースに、これほど合う食べ物はないなあ、とその後もずっと焼きそばとスルメの足の関係が頭の中にインプットされ、従ってスルメイカの調べものをしただけで、たちまち焼きそばが連想されたのである。 こうなると、もう居ても立ってもいられず、空腹だったので足に馬力をかけ、スピードをつけて走り出し、近くのスーパーマーケットに行って焼きそばとスルメを買ってきた。帰りも走り続けたので、我が厨房「食魔亭」に戻ったときには荒い吐息。それを吐きながら、まずフライパンに油を敷き、あとは焼きそばの生麺が入っていたビニール袋に書いてある通りに麺を炒めた。 具に使ったスルメの足は水に漬けて戻すなどせず、ハサミでチョキチョキと切ってそのままそれを麺と一緒に炒めたのだ。そして、炒め上げの最後に、「特製ソース」などと自慢げに書いてある小さな袋を裂き、上からそのソースの粉末をまいて、よく混ぜた。途端に、ああ懐かしやソースのにおい。するとここで、腹に同居している欠食虫がググーと鳴き出した。待て待て虫よ虫さんよ。 大きな皿に、炒めたての焼きそばを盛り、その上に、付いていた緑色の粉状のりを表面全体にまき、そして紅ショウガをのせて完成を見た。さあ食うぞ。皿を両手で持ち上げ、それを鼻の前までもっていって、思い切り深呼吸した。ああ、昔のあのソースのにおいがして懐かしい。そして、いよいよ口に入れた。すると、濃厚なソースの味が口中に広がり、歯には麺の軟らかさとシコシコのイカの足が交互に当たる。ウグウグとほっぺたを大きく膨れさせて焼きそばを噛み、合間に熱いお茶を飲みながら、独りで3人前をペロリした。 小泉 武夫(こいずみ たけお) イラスト/茂本ヒデキチ |
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