|
|
|
|
冷やしうどんのタレ発酵学者・文筆家 小泉武夫
暑さが残っている今は、まだ笊(ざる)うどんのようなものを食いたくなる。そういう場合、多くは醤油味のダシ汁を主体とした、いわゆる「麺汁(めんつゆ)」を用いるが、いつもそれでは面白くないので、我が輩は特製のつけダレをつくって楽しんでいる。 よくやるのは、おなじみの「ゴマダレ」で、摺って粉にしたゴマに砂糖を加え、少しの塩も加えて、それを醤油味のダシ汁(市販の麺汁を薄めたものでよろしい)で溶いたものである。それにうどんをつけて食べると、ゴマから立ってきた香ばしい匂いが鼻をくすぐり、口の中はゴマからのコク味と、うどんからのうまみと甘みに満たされて、食味絶頂の状態に陥る。 我流の納豆ダレも甚(はなは)だよろしい。納豆をまな板の上で包丁で叩いて、なるべく細かなひき割りの状態にしたのを器にとり、そこに好みにより生鶏卵か大根おろしを加え、みじん切りにしたネギをまいてから醤油味のダシ汁を加えてかき混ぜたタレである。納豆のヌラヌラスベスベが、うどんのツルツルに一体化して実に滑らかになり、そこに納豆のうまみや大根おろしのほろ苦辛み、さらにはうどんからの上品な甘みも融合し合って、いいわよ、いいわよってなことになる。 マグロの油漬けの缶詰を開けて器に入れ、適当に身をほぐし、その上から貝割れ大根のみじん切りを加え、七味トウガラシを振ったものを醤油味のダシ汁で溶いたのは、少々派手なコクと濃厚さがあって好みは分かれるが、その強いうまみに誘われて、捨てがたい魅力がある。この場合は、うどんの表面の肌にまでマグロ味に染まった油がまとわり付くので、コクが必要以上にのり、キトキト感を好む人にはおすすめのタレである。 我が輩が特に好むタレは、クルミである。市販されているクルミの実を摺って粉にし、そこに砂糖と塩を少々加え、醤油味のダシ汁で溶いたものだが、この場合は、あまりしょっぱくしないで、むしろ甘ダレ的に甘みを残しておくことである。このタレにうどんをつけて食べると、クルミの持っている上品な油脂のコク味がうどんにからんで絶妙となり、またタレの甘みとクルミのかすかな甘み、うどんの上品な甘みも味わえて、これまたいいわよ、いいわよということにあいなる。 また、趣を変えて、ゆるめにし少しドロリとしたカレーにうどんをつけて食べたことがあったが、これはカレーの辛みと匂いが食感をどんどん誘い、捨てがたいものであった。 小泉 武夫(こいずみ たけお) イラスト/茂本ヒデキチ |
|
|
copyright(c)1998-2010(社)日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会
|