|
|
|
|
タンメン発酵学者・文筆家 小泉武夫
麺類がとても好きなので、機会があるごとに麺を啜ったり食べたりしている。街に出ているときに食べる麺はそばかラーメンであるが、ふと思い立って食べたくなるのがタンメン(湯麺)である。これが本当に大好きで、毎日啜りたいと思いながらも、気づいてみると月に2、3度ぐらいしか実現していない。すなわちその間隔が、一層おいしさを募らせてくれているのであろう。 タンメンは炒め野菜のスープを塩で調味し、そこに中華そばを加えた汁もの麺で、「湯麺」と書くのは「湯」は中国語で「スープ」のことだからである。しかしスープに麺を入れただけでは単調すぎるので、スープの味を崩さずに生かすための具にと野菜が使われたのである。 先日も街を歩いていると昼飯時になったので、ほどなく見つけたこぢんまりとした中華料理屋に入り、タンメンを頼んだ。これまでずいぶんと街でタンメンを食べてきたが、スープの塩加減や麺の太さ、具の種類など結構店によって違いがある。しばらく待っていると、いつもどこの店でも見られるタンメンが、いつものように出されてきた。 まずおいしそうな湯気の立っているタンメンをじっくりと見る。麺の上にはキャベツ、モヤシ、ニンジン、タケノコ、シイタケ、ゆでたウズラの卵、豚肉の細切れなどがたっぷりとのせてあり、下の麺が見えないほどだ。匂いを嗅ぐと、キャベツの甘い匂いがしてきて、さらに具を炒めたときの香ばしい匂いも立ってきて、そして麺そのものからも微かな甘い匂いと灌水(麺を打つときに小麦粉に加える炭酸ナトリウムなどが入ったアルカリ水)の匂いがしてきた。 そして、いよいよ麺を啜る。湯匙(ちりれんげ)でスープをすくい、口に含んだ。すると、塩みを抑えるようにして最初に感じたのは野菜からの甘みであった。ただの甘さだけではなく、うまみを伴いながら「妙味必淡」を思わせる味だ。次に具の野菜を箸でぐいとつまみ上げ、食べた。歯と歯でムシャムシャと噛むたびに、甘みとうまみとコクのある味がピュルル、ピュルルと湧き出してくる。 それをゴクリンコと呑み込む。そして目ざとく見つけた豚肉の細切れだけを箸でつまみ、口に入れて噛んだ。タンメンを味わう楽しみのひとつがここにもある。小さな豚肉片は、ピロロンとした脂肪身がほとんどだけど、それを噛むたびに、ピュルピュルと微かな甘みとペナペナとしたコクが出てきて絶妙。 そして麺をツルツルと啜った。その麺は、淡い黄色を帯びてとても滑りがよく、具のシャキリシャキリとは対照的に口の中でやさしく、そして柔らかに踊った。たったの650円で味わえた、味覚極楽の境地がそこにはあった。 小泉 武夫(こいずみ たけお) イラスト/茂本ヒデキチ |
|
|
copyright(c)1998-2010(社)日本麺類業団体連合会/全国麺類生活衛生同業組合連合会
|