《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

繁盛するには、わけがある

第二回 片山虎之介

飲み食い話の玉手箱

取材で旅することが多いため、各地で様々な料理を食べるが、ラーメンも好きな料理のひとつだ。

福島県の会津若松市に、おいしくて、ちょっと変わったラーメン屋さんがある。一度行ったら、また行きたくなる、リピーターの多い繁盛店だ。

店の名は『ほていや』。外観はハンバーガー屋さんかファミリーレストランを思わせるデザインだが、チェーン店ではない。チェーン展開するには、おそらく、これほどやりにくい店も少ないだろう。

店主、海野勝英さんと奥さんの京子さんが、この店を切り盛りする。海野さんは、店の特徴を次のように語る。
「二年前から平日だけ、夜の営業をやめて、お昼の時間帯だけに絞りました。3時になったら店を閉めて、畑で農作業をするのです。店でお出しする料理のほとんどは、野菜も米も自家栽培した食材を使っています」

海野さんの家は農家であり、父親の代には、市場に毎日、トラック2台分も出荷するほど野菜を生産していた。その原点に立ち戻り、みずからの手で栽培した、安心できるおいしい野菜を使った料理を作りたいのだという。
「たとえば冬の季節、会津は雪が深いのですが、畑の雪を掘り起こしてキャベツを穫ってきます。これが甘くておいしいのです」

飲み食い話の玉手箱

作物は低農薬で作るため、形が不揃いであったり、虫に食われていたりする。調理するとき、できるだけ形を整えるのだが、時には客から「へんな格好の野菜だ」とクレームをつけられることもある。しかし事情を説明すれば、だいたい納得してもらえるという。

自家製の食材だからといって、経費が不要になるわけではない。購入するよりは割安だが、農作業の機械設備を始め、諸経費はかなりかかる。
「そう考えると営業時間は減らさずに、野菜は市場で仕入れるという方法もあったのですが、やはり自分で作った野菜を使って、安心しておいしいものをお出ししたいという気持ちが強くて、家内と相談して今のスタイルに決めたのです」

おだやかに語る海野さんは、料理がおいしいことと同時に、接客、サービスも「御馳走」の一部だと考える。その考え方に沿って店舗も、客がくつろいで過ごせる、ファミレス風のデザインにしたのだ。

調理場で鍋を扱いながら、海野さんは注文した客の顔を必ず見る。
「この注文は、おじいちゃん。あの席は、あ、お子様が小さいか。その次の注文は女性の方、と。それによって召し上がりやすいよう、麺の茹で時間を加減するのです」

茹で上がりの判断は、タイマーや、指で折ってみるなどの方法ではなく、必ず自分の口で確かめる。噛んでみるのが、いちばん良くわかると海野さんは言う。

飲み食い話の玉手箱

野菜も大切だが、ラーメンの麺にも独自の個性を持たせている。製麺機で作った麺の玉を、ひとつひとつ、手でつかむようにして揉むのだ。それを2日間寝かせて熟成させ、客に提供する当日、すべての麺を、もう一度揉む。
「こうすることで麺の一本一本がよれて、茹でたときに、お湯の吸い込み方にムラができます。早くちぎれるところと、少し太めで弾力のあるところができて、食べたときに食感の変化を楽しめるのです」

海野さんは仲間とともに会を作り、「会津ラーメン」の名前で、これを供している。会が発足してからまだ日は浅い。しかし、人気は急上昇している。信念に沿った努力と工夫の積み重ね。繁盛店には繁盛する理由が、必ずある。

ほていや

福島県会津若松市山見町130─1
0242─24─6448

トップページへ トップページへ