《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

イタリア風のラーメンに、女性客が集まる

第十八回 片山虎之介

ラーメンとは、なんと自由な料理なのだろうと、石塚さんのラーメンを食べると思う。これは確かにラーメンなのだが、ひょっとしたら半歩ぐらい、ラーメンではない世界に足を踏み出してしまっているのではないか。それでもやはり、ラーメンはラーメンなのだ。それほど自由な料理なのだと、感動すら覚えるのだ。

たとえば、このスープ。「あっさり」したスープなのだが、簡単に「あっさり」と書いてしまうと、違ったものになる。主張が弱い、淡白な「あっさり」ではない。濃厚でコクがありながら、しつこさを感じない味なのだ。しかし言葉にすれば、「あっさり」になる。よその「あっさり」と、石塚さんのスープの「あっさり」は、同じではない。

これはたぶん、水と脂のコントロールが鍵なのではないかと感じる。
 尋ねると石塚さんは、水について次のように言う。
 「当店で使う水は超純水です。逆浸透膜を使って水以外の不純物を99.8パーセント除去してから、セラミックスを使って水の性質を変えたりします」

ここまで水にこだわるのは、ある料理人との出会いがあって、水の重要性に気付かされたから。そのときからラーメンに対する考え方が、大きく変わったという。

脂の旨味はスープに豊かに溶け出しているが、いわゆる脂っぽさは、注意深く取り除かれている。石塚さんの味覚の冴えが、このスープを飲めばわかる。とにかくまず石塚さんの店『ドゥエ イタリアン』を訪ね、ラーメンを食べてみていただきたい。料理の本質は、言葉でいくら解説しても、結局のところ食べてみなければわからないものなのだ。

『ドゥエ イタリアン』は、東京・千代田区の市ヶ谷駅近く、靖国通り沿いにある。店の外見は、イタリアンの店かと思うような作りで、明るい雰囲気に包まれている。

この店を訪れる客の8割が女性だという。そこまで女性が多いラーメン店というのは、極めて珍しい。客の目当ては、イタリアンの雰囲気で作り上げたラーメンの数々だ。平日は近隣の会社に勤めるOLや、女子大生。日曜日は遠方から訪れる、ラーメン好きの客で席は埋まる。

「特に女性客を狙っているわけではないし、奇抜なことをやろうとしているわけでもないんです。自分がやりたいことをやっていたら、たまたま女性のお客さんが、それを気に入ってくれたという感じです。この世界に入ったのはどうしてかとよく聞かれます。理由のひとつに、僕は誰かがひとりで食事をしている姿を見るのが嫌なんです。イタリア料理店では、家族や恋人などを多く見かけます。そんな中に、ひとりで食事をしているご老人とかを見ると寂しくなるのです」

ラーメンはひとりで食事する事がいちばん多い食べ物かもしれないと、石塚さんは言う。だからラーメンの料理人になり、ひとりで食事をしている人に、笑顔を届けたかったのだと。
 自分のやりたい事を、自分ではっきり認識している人だ。だから作り出すラーメンも、はっきりしたメッセージを備えたものになる。

トマトを生かしたラーメンを作ろうと思い立ったら、すべてに徹底してやる。表紙に掲載した「冷製イタリア麺 赤」の、トッピングに使っているトマトの数は30個。 1パック全部を、一杯のラーメンに乗せる。さらにソースには6個分を使い、トマトの品種は3種類を使い分けている。

「フルーツトマトは甘味を生かすために使います。サン・マルツァーノ・トマトは酸味が魅力。もう一種類、イタリアのトマトで味に深みを加えるのです」(石塚さん)

この「冷製イタリア麺 赤」は、ユニークなメニューのラインナップの中でも、上位にランクされる人気商品だ。

しかし、基本は醤油ラーメンだと石塚さんは考える。

「醤油や塩のラーメンが、しっかり作れること。あくまでも、そこがスタートラインです。バリエーションはそれから後の話です」

華やかなメニューが並ぶ中で、一番人気は、一見地味な「醤油らぁ麺」だという。特に、年配の客がこのラーメンを好む。 「やっと私たちが食べられるラーメンに、巡り会えました」と喜んで、リピーターになる客が多いというのだ。

その「醤油らぁ麺」を味わってみた。
 スープの味、麺の味、具材の味、三者の味が切り分けたようにクリアーに感じられる。なおかつ全体のバランスの良さは際立っている。

見かけは普通のラーメンだが、食べてみると、食味の力強さに圧倒される。こういう醤油ラーメンは、初めて食べた。リピーターになる客の気持ちが、なるほど、良くわかる。


Due Italian ドゥエ イタリアン
東京都千代田区九段南4─5─11
富士ビル1F
電話03─3221─6970
http://dueitalian.media-sp.jp/index.html

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