《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

さらしな蕎麦の 新しい世界


第二十六回 片山虎之介

福島県郡山市にある『蕎麦切り あなざわ』の人気メニューは、真っ白いさらしな蕎麦だ。麺の中から光が生まれてくるような、美しい細切りの蕎麦。主人の穴沢英市さんは、『蕎麦切り あなざわ』の最高傑作のメニューは、さらしなの「極上蕎麦きり 大盛り」であるという。その通り、魅力的な蕎麦だ。だから常連客の注文も、さらしな蕎麦に集まるのだ。

それとは別に基本の「もりそば」として、二八蕎麦が用意されている。これも色が白くて細打ちで、さらしな蕎麦のイメージが重なる仕上がりになっている。

「もりそば」のバリエーションとして「割子もり膳」、「鴨汁もり膳」、「とろもり」などがある。

蕎麦はざるではなく、小さな鉢に盛られ、他の料理と合わせたセットが中心のメニュー展開。この店ならではの独自なスタイルが提案されている。

穴沢さんの蕎麦打ちを見せていただいた。

湯ごね、水ごねの技法で打つが、これは郡山市のある中通りに隣り合った、会津地方の特徴的な打ち方だ。会津の蕎麦の影響を強く受けているということができる。

会津地方には、昔からさらしな蕎麦の食文化があった。この地方では、蕎麦は庶民の食べ物であると同時に、贅沢な食べ物でもあった。会津盆地は米が豊かにとれたため、蕎麦は趣味食、贅沢品としての食べ方が工夫されたのだ。

祝い事などがあると、必ずといっていいほど、蕎麦の実の中心部分を使って打った色の白い蕎麦が振る舞われた。

ソバの実の中心部の粉を取り分けてしまうと、残るのは、甘皮などを多く含む、実の外側の部分だ。これは蕎麦がきにして食べたり、農耕に力を借りる大切な家畜の餌にした。

人は、実の中心部を食べ、それ以外の部分は家畜に食べさせたのである。これが会津の蕎麦の特徴だ。だから会津の蕎麦粉は、他地域と違って、デンプンを多く含む、さらしな粉に近い蕎麦粉になる。

この粉は水だけで打つと、長くつなげるのが難しい。そのため湯ごね、水ごねという、会津ならではの技法が生まれ、普及したのだ。

穴沢さんは会津の蕎麦の魅力に惹かれ、その技法を積極的に取り入れて、『蕎麦切り あなざわ』の看板メニューにしたのである。

さらしな蕎麦は、蕎麦独特の香りは弱く、癖のない甘味が持ち味となる。この蕎麦は、もっと見直されてもいい蕎麦だと思う。蕎麦切りの味が強くないため、いろいろな食材と組み合わせやすいのだ。

魚でいえば、全粒粉で生粉打ちした蕎麦が、個性の強いマグロの赤身だとすれば、さらしな蕎麦は鯛や平目のような白身に例えることができる。赤身と白身の魚では、その食材を生かす調味料も異なるし、仕上がった料理も、まったく違った魅力を備えたものになる。

『蕎麦切り あなざわ』には、蕎麦好きの人たちが集ってくる。その理由は、ひとつ。さらしな蕎麦が、うまいからだ。

この蕎麦を追求していくと、従来はなかった、魅力あふれる世界を開拓できる可能性がある。意欲的な蕎麦屋さんには、ぜひ、この新世界に挑戦していただきたいものだ。


蕎麦切り あなざわ
福島県郡山市静町37─13
電話024─954─6363

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