《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

のびない、冷めない、待たせない
蕎麦の出前専門店


第三十四回 片山虎之介

神奈川県川崎市にある『入船』は、出前専門の蕎麦店だ。店舗を構えてはいるが、ここでお客が食事をすることはない。すべて、注文を受けた商品を、バイクで配達するシステムで運営している。

以前は、店で蕎麦を供する普通の蕎麦店であったが、15年前に出前専門店に切り替えた。その時点で、出前は店の売り上げの9割を占めていたという。そのころの売り上げ高は、年商7〜8千万円。現在は、4千万円ほどだという。

出前専門店に切り替えるにあたり、注文をスムーズにこなせるように、コンピュータなどの機器を充実させた。売り上げや経費を正確に把握し、無駄のないシステムを構築することにつとめた。

その結果、単に売上高が多ければ良いというものではないことがわかった。仕事が多過ぎると、人手が足りなくなる。人手を増やし過ぎると、仕事が足りなくなる。主人の飛田武男さんと、奥さんの照代さん、それにふたりの従業員が無理なくこなせる仕事量を、過不足なく維持することが大切なのだ。

『飛田武男さんは、店の現状を次のようにいう。

「出前は、蕎麦がのびない範囲までなので、配達のエリアは限られてきます。小規模な商いなので、大手が参入してくることがありません。だから安心して仕事ができます。当店では、ランチの注文が、全体の3〜4割を占めます。なるべく値段の高いものを買っていただくように工夫していますので、一日平均111食売れて、一食の平均単価は1124円になります」

これくらいの数字が、仕事量と収益のバランスがとれて、最も効率が良い状態だという。注文数が減ると、店のメニューを配布し、注文が多過ぎるときはホームページを一時的に見えなくしたりする。

「商品で、いちばん大切なのは見た目です」と、飛田さんは言う。「配布したメニュー(チラシ)の写真を見て、お客様はご注文をくださいます。まず、おいしそうに見えなかったら、注文は来ません。食べてみて、おいしかったら、リピーターになっていただけます。見た目が、おいしそうでなかったら、リピーターになる最初のきっかけも、できないことになります」

だから見栄えを考えながら商品メニューを考えた。魅力的な蕎麦の写真が並ぶメニューは、インターネットで印刷を注文し、1枚2円から4円ほどで作ることができる。

「メニューを配れば、注文は来ます。配布数と注文数は、比例します。簡単なことです」と、飛田さんは笑うが、それは綿密に計算され、工夫された、『入船』流のシステムがあってこその話だ。

蕎麦の出前の問題点は、蕎麦がのびること、冷めること、お客を待たせてしまうことだという。その解決方法を飛田さんは、惜しげもなく教えてくれる。

「蕎麦は機械で捏ねて、人が延して、機械で切って作っています。蕎麦粉は北海道産を使い、蕎麦粉が約65パーセント、つなぎの小麦粉が約35パーセント。そこに1パーセント程度のこんにゃく粉を練り込んでいます。こうすると冷麺のような食感になって、30分ぐらいは、蕎麦がくっついて固まるようなことがないのです」

配達の途中で冷えるのを防ぐために、保温用のカバーを独自に開発した。お客を待たせないためには、配達できる時間を正確に告げることだという。

ピザや寿司の宅配専門業者が増えているが、家でゆっくり蕎麦やうどんを食べたいと思う人は、少なくない。そういうお客のために、蕎麦屋さんはもっと出前をやっていただきたいと、飛田さんは提案する。


入船
神奈川県川崎市川崎区昭和2─6─9
電話044─299─1395

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