《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

九州・大分の
春まき蕎麦に注目


第三十八回 片山虎之介

大分県・豊後高田市(ぶんごたかだし)の春まき蕎麦が、注目を集めている。また、沖縄で収穫された蕎麦が、なかなかおいしいと話題になっている。

このところ南の方から、元気な蕎麦の話が聞こえてくる。いずれの蕎麦も、手がけたのは、九州沖縄農業研究センターだ。沖縄の蕎麦も興味深いが、今回は新蕎麦の時期も近い、豊後高田市の春まき蕎麦の魅力について、レポートしよう。

春まき蕎麦とは、その名の通り、春に播種して夏に収穫する蕎麦のことだ。

夏に出る北海道の新蕎麦は人気が高く、日本の夏は北海道の新蕎麦なしでは始まらないと言っても過言ではない。

しかし、北海道の新蕎麦が本格的に出回るのは、暑さも盛りになったころ。蕎麦好きの人々に暑い夏を楽しく過ごしてもらうために、もう少し早い時期に新蕎麦を市場に出せないものかと取り組んだのが、豊後高田市と九州沖縄農業研究センターだった。

九州は北海道より暖かいので、早い段階で種を蒔き、育てることは可能だ。しかし、そうして育てた蕎麦を、商品として市場に出すためには、いくつもの問題があった。

春まき蕎麦が実って、刈り入れをする時期は、ちょうど梅雨の真っ最中だ。雨が降っては刈り入れの作業ができない。さらに問題なのは、ソバには「穂発芽」という特性があって、枝に付いたままの状態でも、実が水に濡れると芽を出してしまうのだ。

発芽した実は、極端に食味が落ちる。このやっかいな問題が、豊後高田市の春まき蕎麦への取り組みを阻んだ。

これを解決したのが、九州沖縄農業研究センターが開発した新品種「春のいぶき」だった。穂発芽しにくい新たな品種ができたおかげで、梅雨の時期のソバ栽培が可能になったのだ。

豊後高田市の今年の作付け面積は75ヘクタール。うまくいけば50トンはとれる規模だ。しかし、地元の観光地「昭和の町」を訪ねる客に蕎麦を提供するため、収穫された蕎麦のほとんどが地元で消費される。県外に流通させることのできる量は、まだ多くはないが、蕎麦店からの問い合わせは、かなりあるという。

収穫時期が梅雨という条件は、豊後高田市の春まき蕎麦に、もうひとつ特徴を与えた。いつ刈り入れ作業をするかというタイミングの見極めには、黒化率よりも空模様が重要になるのだ。つまり梅雨の合間に晴れの日があったら、このときとばかりに刈り取ってしまわなければならない。そのため、かなり早刈りの蕎麦も出てくる。


写真でおわかりのように、甘皮の緑の濃さは、驚くばかりだ。この色を、上手く麺に移すことができれば、豊後高田市の春まき蕎麦ならではの、個性ある蕎麦ができるかもしれない。

豊後高田市にある蕎麦店『旅庵 蕗薹(りょあん・ふきのとう)』では、春まき蕎麦の新蕎麦を、6月上旬から味わうことができる。


旅庵蕗薹
大分県豊後高田市田染蕗2365
電話 0978─26─2668

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