《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

底冷えのする大晦日
あつもり蕎麦で年越し


第四十五回 片山虎之介

日本の国民的行事ともいえる、年越し蕎麦が近づいてきた。

やはり蕎麦を食べながら、一年を振り返るという習慣は体に染み付いていて、これをしないと一年が終わった気がしない。

それにしても寒い時期なので、一般の蕎麦好きの方の中には、冷たいもり蕎麦はどうも…と、敬遠するむきも少なくない。もちろん温かいかけ蕎麦の類を食べてもいいのだが、やはりもり蕎麦のほうが、年越し蕎麦の雰囲気だろうという意見もある。

それなら、日本には温かいもり蕎麦「あつもり蕎麦」が伝統的にあるのだから、これを食したら、体も暖まり、年越しの気分にもひたれることだろう。

京都の『竹邑庵太郎敦盛』(ちくゆうあんたろうあつもり)は、あつもり蕎麦をメニューの柱に据えた蕎麦店だ。

主人の小林めぐみさんは、お客さんの反応を、次のように言う。

「あつもりが好きとおっしゃってくださる方と、もう絶対かなわんわという方とはっきり分かれますね(笑)。自分は嫌いやけど、人を連れて来てびっくりさせるのが好きやという方もおられます。そういう意味で、いろいろファンがいてくださるのはありがたいですね」

通常、もり蕎麦は、茹でた後、水で締め、冷たい状態で供する。一方「あつもり」は、水で締めたものを再び、熱湯で温めてから器に盛る。

しかし『竹邑庵太郎敦盛』では、釜から揚げた蕎麦を、水で締めるということをせずに、そのまま蒸籠に盛る。

これは一般的には「釜揚げ」と呼ばれる食べ方だ。こうすると、蕎麦の香りや甘さが際立ち、冷たいもり蕎麦とは、まったく異なる蕎麦の一面を楽しむことができるのだ。

先代の主人が創業した店だが、健康に良いものをお客さんに供したいという思いから、蕎麦屋を始めたという。店頭には「そばはくすり」と筆書きされた、古風な看板が置かれている。

同店では、つなぎに長芋と卵を使って蕎麦を打つ。延しまで手作業で行い、切るのは機械。茹で時間は5分と長く、軟らかい食感の蕎麦に仕上げる。もう少し硬い蕎麦が好みだというお客さんには、茹で時間を短くする。

薬味には、京野菜の九条ネギをたっぷり載せる。シャリシャリと柔らかく歯切れの良い食感は、九条ネギでなければ出せないものだ。蕎麦も大切だが、九条ネギが味の決め手となる。今年のように暑い年には、九条ネギが品薄になるため、手当に苦労するという。

冬はネギに甘さと、とろみが加わり、一段と魅力が増す。その味が忘れられず、遠方からはるばる京都を再訪する人もいるほどだ。

底冷えのする京都の大晦日には、あつもり蕎麦を求めて、多くの蕎麦好きがこの店を訪れることだろう。


竹邑庵太郎敦盛
京都府京都市上京区椹木町
通烏丸西入養安町242─12
電話 075─256─2665

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