《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

庶民に愛される
郷土料理「ほうとう」


第四十六回 片山虎之介

正月にうどんを食べる「正月うどん」の習慣が、広がりを見せている。四国から始まった「うねり」だという印象もあるが、日本各地の食習慣を調べると、正月にうどんなど、麺類を食べる地方は意外に多い。古文書の中にも、正月にそうめん、うどん、蕎麦などを食べたという記録を、見いだすことができる。

山梨県史の編纂にも携わった、駿台甲府高等学校教諭の影山正美さんの研究によると、山梨県の甲府盆地には、正月にうどんを食べる習慣が残されているという。近隣の長野県の佐久地方、群馬県全域、埼玉県の全域、栃木県南部、茨城県西部などでも、正月にうどんを食べる習慣が見られるとのこと。

一般的には山梨の郷土料理というと、「ほうとう」のイメージが強い。山梨県を旅すると、「ほうとう」と書かれた飲食店の看板を、あちこちで見かける。

「ほうとう」とは、塩を使わずに打った、幅広の、うどんのような食べ物だ。それを、野菜を中心にした具材と一緒に煮込むため、汁には小麦粉が溶け出して、とろみが付く。そこが「ほうとう」の、美味しさの特徴でもある。

山梨県では「うまいものだよ、かぼちゃのほうとう」という言葉を、誰もが知っていて、「かぼちゃのほうとう」が美味しいことは、山梨県人の共通認識となっているようだ。

甲府駅前などに多くの店舗を展開する、山梨の郷土料理の店『小作』で、名物の「ほうとう」をいただいてみた。

看板メニューは「かぼちゃほうとう」。味噌で煮込んであり、かぼちゃ、しいたけ、にんじん、きぬさや、など、具の彩りが美しい。

食べてみると、やわらかな食感の幅広の麺が、口にやさしい。日本人にはなじみ深い味噌の風味と、かぼちゃの甘さに、「ほっ…」と安堵感を覚える。気取らない庶民の味だ。

店長の天野良太さんの話によると、店で最も注文が多いのが、「かぼちゃほうとう」だという。

温かいものが食べたくなる冬だけでなく、夏にも多くの客が、ほうとうを注文する。年末には、さらに客が多くなり、年越しに食べたり、正月に食べる人もいるという。

『小作』では、「かぼちゃほうとう」のほかにも、多彩なメニューを用意している。「豚肉ほうとう」「ちゃんこほうとう」「鴨肉ほうとう」など。あずきを使った甘い「あずきほうとう」も、人気の一品だ。

そのほか、山梨県の郷土料理で、あわびを煮た「煮貝」や「馬さし」も、重要なメニューだ。

山梨の一般家庭では、夕食に食べた「ほうとう」の残りを、翌日、もう一度煮て、食べることも多い。幅広の麺に、味噌の味が染み込み、さらに美味しくなるのだ。

再び煮込むと、見た目の美しさは半減するが、実質的においしければそれで良しとする、こういう庶民的なところが「ほうとう」の魅力なのだろう。


小作 甲府駅前店
山梨県甲府市丸の内1─7─2
電話 055─233─8500

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