《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

地域のみんなで支える蕎麦屋


第五十三回 片山虎之介

福井県南越前町の今庄といえば、「今庄そば」の名前で知られたところ。福井県の中でも、おろし蕎麦の歴史の古い地域だ。

ここに、ちょっとユニークな名前の蕎麦店がある。屋号は『ほっと今庄・おばちゃんの店』。
平成12年に、蕎麦で地域興しをしようという目標のもとに創業した蕎麦店で、名前の通り、地元の女性たちが中心になって運営している。

同店は、創業以来14年間、一度も赤字を出したことがない。ずっと黒字経営を続けてきたというその秘密は、どこにあるのだろうか。

福井には、何百年にもわたって守り伝えられる、おろし蕎麦の食文化がある。歴史をひもとくと、文化8年(1811)には、すでに蕎麦切りを、大根おろし、葱、花かつおなどで食べる、御馳走としての蕎麦が存在したことが古文書に記録されている。

当時使った器のことや、具体的な調理方法などは書かれていないが、使われた薬味の種類は、福井の人々が今も毎日食べている越前おろし蕎麦と同じものだ。

『ほっと今庄・おばちゃんの店』で供している蕎麦も、まさにこの伝統にのっとったもの。郷土の蕎麦食文化は、その地域の蕎麦を最も美味しく味わう食
べ方を、先人たちが何代にもわたって工夫を重ね、作り出した調理法だ。それを大切にすることが、地元の蕎麦を生かす最良の方策といえる。

この店で働くスタッフは、社員が11名、非社員が2名。社員になるためには出資金40万円を負担し、出資者になる必要がある。それが社員の意欲を刺激する原動力になる。

出資金を出すことで、社員ひとりひとりが「この店は自分の会社」という気持ちを持つことができる。「力をあわせて、この店を、皆に喜んでもらえる美味しい蕎麦屋にしたい」という意欲を引き出すための、ひとつの方法なのだ。



だから『ほっと今庄・おばちゃんの店』で働く人たちは、調理技術の習得にも熱心で、福井県知事が認定する蕎麦料理の達人の制度、「むらの達人隊」に認定されている。

店で使う材料のソバは、すべて地元で生産されたものだ。畑では、昔から栽培されているソバを育てているが、生産量は約25トン。そのほとんどを、地元で消費してしまう。

もっと広い面積に栽培し、たくさん収穫したいと思っても、畑の面積は限られているし、人手の問題もあり、思うようにはいかない。

何よりも、大規模大量生産の作り方は、このソバには似合わないのだ。

小粒で風味に優れた、地元のソバの良さを生かすには、どうしたらいいのか。試行を重ねた結果、たどりついたのが、今の方法だ。

地元で生産したソバを、地元の店で製粉し、手をかけて作った蕎麦を、客に楽しんでもらう。

そして、働く人たちに、やりがいを持ってもらう。

どうやらこれが、14年間にわたる黒字経営の秘訣らしい。

伝統の蕎麦を守り、それを地元の人たちの生活を豊かする力にしようという地道な取り組みは、着実に実を結んでいる。



ほっと今庄・おばちゃんの店
福井県南条郡南越前町今庄9-13
電話 0778─45─1144

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