《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

10年先の蕎麦屋を考える


第五十四回 片山虎之介

昨年の、蕎麦業界全体の売り上げ額は、前年に比べて伸びたようである。

それだけ聞くと、喜ばしいことなのだが、売り上げの内訳を見ると、伸びた分は、ほとんど、いわゆる駅蕎麦などのチェーン店の分だという。

一般の蕎麦屋さんの状況は、横ばいといったところだろうか。

外食産業の世界では、様々な店が激しく火花を散らしている。

その中で、私たちの、蕎麦・うどん・ラーメンなど、麺の世界は、規模の小さな店が多く、ハンバーガーやピザの宅配業者、回転寿司などの、大資本がぶつかりあう業界とは、ちょっと異なる世界を形作っている。

時代は、恐ろしい速度で変わっている。

大会社さえ、他の会社との競争に負けると、あっという間に左前になる。

技術開発のスピードも脅威的で、明日は何が起こるか判らないのが現実だ。

この時代を生き抜くには、どうしたらいいのだろうか。

特に、個人経営の暖簾を揺らす店が多い蕎麦屋さん。本気で腰を据えて、10年先を見つめていただきたい。

かつて町なかには、いくつも喫茶店があったものだが、コーヒーのチェーン店が先を争って店舗展開した結果、以前からあった小さな喫茶店は、幻のように姿を消してしまっている。ほんとうに短時間に起こった出来事である。

これと同じことが、蕎麦屋さんに起こらないと、誰が言えるだろうか。

そのうえ、コンビニでも麺に力を入れ、多額の予算を投じて研究した、消費者好みの麺を、多種類、販売している。こちらは24時間だ。

ますます、既存の蕎麦屋さんは追いつめられる状況にある。

そして、今、大資本が、蕎麦、うどんの業界をうかがっているのだ。

昔から安定した需要があり、しかも小さな店が並ぶこの業界は、大資本にとっては、極めて魅力的な市場なのだ。蕎麦、うどんの市場は一兆円規模とも言われ、競争の激しい他のジャンルよりも、手を伸ばしやすい分野として、大手の会社の関心は日増しに高まっている。

町の蕎麦屋さんが、この時代を生き抜くために必要なことは、まず、技術の向上である。店の商品の味を上げるよう、勉強して、努力しなくてはならない。安さで売るという方法は、大資本には絶対かなわない。店の立地条件も、大資本の出す店のほうが、人通りの多い、有利な場所に出せるだろう。

小さな店の武器は、自分の腕しかない。技術を磨き、細やかな対応をすることで、大資本の店にはない魅力を備えるしかないのだ。

それと、個々のお店は腕を組んで、力を合わせることで、大きな脅威と対抗できる可能性が生まれてくる。

たとえば日麺連のような組織で、個々の店を守る対策に取り組んでいる場に、積極的に参加することが大切だ。

10年先、蕎麦屋さんは、どうあるべきか。若い蕎麦屋さんの中には、真剣に考え、それぞれに答えを見いだし、前進しているところがある。

そうした店のひとつ、東京の『一東菴』、ここも10年先の蕎麦屋の姿を、真剣に模索する一軒だ。いろいろな蕎麦屋さんの活動の様子を知り、良いところは取り入れていきたいものである。この冊子『麺』で紹介する店は、上記のような意図のもとに選択した店が多い。

小さな店は、腕を磨く、腕を組む。これが、これからの時代を生き抜くキーワードになるのではないだろうか。



一東菴
東京都北区東十条2─16─10
電話 03─6903─3833

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