《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

郷土の奥座敷
 能登産の蕎麦を生かす


第六十六回 片山虎之介

北陸新幹線が開通して、金沢の町は活気にあふれている。

観光客で混雑する金沢駅から、車で5分ほどのところに、『石臼挽き純手打そば村田屋』はある。

創業は昭和39年。父が大衆食堂として経営してきた店を、二代目の村田隆仁さんが、手打ち蕎麦の専門店として、平成7年に大幅リニューアルさせた。

店の方向性について、村田さんは次のように言う。

「当店では、能登半島が近いので、能登の食材を生かしていきたいと思っています。能登には、豊かな自然の中でしか採れない優れた食材が、たくさんあるのです」

能登と聞いただけで私の頭の中に、白波に洗われる岩礁の海岸や、ズワイガニの赤い殻からはみ出した、プリプリと弾けそうな白い身肉が浮かんでくる。なるほど、おいしそうな素材が揃っていそうだ。

村田さんは、続けて、さらに魅力的な言葉を口にした。

「ですからきょうは、ぜひ、能登産の蕎麦を召し上がってください」

思わずハッと目が覚めた気がした。そうか、そういうものがあったのだ。能登産の蕎麦とは興味をそそられる。いったい、どういう品種で、どんな背景の蕎麦が穫れるのだろう。

「それは楽しみです。どんな蕎麦なのか、事情を聞かせてください」

村田さんの説明によると、その蕎麦は、能登の生産者が『石臼挽き純手打そば村田屋』のために栽培してくれている、在来種の蕎麦なのだという。

6年ほど前に、その生産者が店を訪れ、「こういう蕎麦を作ったから、試してください」と、蕎麦を手渡してくれた。それがスタートで、その後、村田さんも手を貸して、良い蕎麦を作るための試行錯誤を重ねた。ようやく「これなら店で出しても恥ずかしくない」と思えるレベルの蕎麦が出来上がったのだという。

能登の生産者が収穫した蕎麦は、村田さんが引き取って自家製粉する。

「十割」として打つ粉は、24メッシュ。「せいろ」に使う粉は、60メッシュのふるいを通す。

それを丁寧に手打ちした蕎麦は、色も美しく、繊細な細切りで、金沢という町の食文化にぴったりな印象を受ける。

食味も、十分な風味を備え、バランスの良い張りと、しなやかさがある。

蕎麦に合わせる蕎麦つゆも、癖のない醤油を厳選し、主張を抑えた、完成度の高い味にまとめている。

金沢の醤油は、比較的甘みが強い傾向がある。村田さんは、自分の蕎麦に合わせるには、それより、もう少し力のある醤油が適していると判断して、関東系の醤油を使っている。

味に丸みを出すために、かえしは、すべて新しく作り替えるのではなく、前回のかえしを少し残して、混ぜるようにしている。

能登産の、風味に優れた小粒の蕎麦は、この蕎麦つゆにサポートされて、金沢の店にふさわしい、洗練された味になる。

間を取り持つのは、村田さんの卓越した手打ちの技と、鋭敏な味覚だ。

新幹線が通ったことで、金沢が東京に近くなったと、関東の人々の注目を集めているが、同時に新幹線は、能登も関東に引き寄せてくれた。能登には、金沢と対になって、表裏をなすともいえる、野趣に富んだ食材と文化が眠っているのだ。

村田さんは、そこに早くから着目し、能登に深く根を下ろし、広げている。

『石臼挽き純手打そば村田屋』は、これからの展開に、わくわくするような期待を抱かせてくれる、金沢の蕎麦の名店である。



石臼挽き純手打そば 村田屋
石川県金沢市諸江町上丁307─15
電話 076─231─6900

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