《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

地元の食文化を生かし
個性的なメニューを作る


第六十七回 片山虎之介

富山市内とは言っても、電鉄富山駅から富山地方鉄道で4駅先、10分ほど走った南富山駅近くに『大町月見』はある。

店内の壁には、メニュー名を書いた紙が、ずらりと並んでいる。

内容は、蕎麦、うどんに限らず、丼物やカレーライスもあり、主人の寺岡清秀さんは「私どもの店は、一言でいうと麺類食堂です」と笑う。

以前はラーメンも供していたが、あまりにも手のかかるメニューが多くなったため、無理をして体を壊してはいけないと、年齢のことも考慮してラーメンはメニューから外した。

しかし、お客さんの人気が高いため、中華麺は現在も自家製麺している。

店で注文が多いのは、セットメニューだ。

いちばん人気は「ミニ天ざる」のセット。

普通の「天ざる」セットだと、会社勤めの人の昼食としては、少々値段が高いので、天ぷらの数を減らして値段を下げた。昼には、このメニューが、最も注文が多いという。

同じお客さんが、休日に家族と一緒に来店すると、ちょっと贅沢をして「天ざる」セットを注文する。お客さんが選びやすいように、セットメニューの内容は、それぞれの希望に応じて、臨機応変に対処する。

一例を挙げれば、「ミニ天ざる」セットの麺は、蕎麦で食べることもできるし、うどんに替えることもできる。さらには中華麺にすることもできる。

中華麺を、日本蕎麦の蕎麦つゆで味わうのだが、これが意外においしいと評判がいい。前述した自家製麺の中華麺だ。

寺岡さんは、地元で蕎麦打ちの達人として知られ、県立高校の調理師養成科の、蕎麦打ちの講師もしている。店では、蕎麦、うどんを手打ちで作る。蕎麦は二八で、毎日、その日使う分を、店内の蕎麦打ち場で、寺岡さんが打つ。

メニューの種類が多いうえに、お客さんの希望によって、セットメニューの内容も様々に変化するのだから、寺岡さんの手間はかかる。それを滞ることなくこなしていくのは、この仕事を始めてから34年という経験のなせるわざだろう。

数あるメニューの中で、『大町月見』の代表的な一品といえ昆布うどん」が挙げられる。客の注文も多く、店でもこのメニューに対する思い入れは強い。

富山県は昔から、富山の薬売り≠ネどで知られ、薬に関連する地域というイメージが強い。富山市ではそれを個性と捉え、富山薬膳という商品を認定する事業を行っている。

 『大町月見』の「昆布うどん」は、「越中富山の昆布うどん」という名前で、富山市の富山薬膳に認定されている。

どういう特徴があるのかというと、まず、粉末にした昆布を、製麺する際に練り込んでいる。さらに薬膳の食材として知られる陳皮も、粉末にして麺に入れてある。

出汁をとるのにも昆布を使い、汁には適度なとろみがついている。

常連客は、薬膳は体に良いからと、この「昆布うどん」を頼む人も多い。

 富山県は全国的に見ると、昆布の消費量が最も多い県になる。

その理由は、北前船の時代にまで遡る。

北海道から北前船で運ばれてきた昆布は、日本海沿岸の寄港地で陸揚げされた。富山でもたくさんの昆布が陸揚げされ、ここから各地に流通していった。そのため富山では、昆布を使った郷土料理が多くなったのだ。

『大町月見』の「昆布うどん」は、富山県の個性をうどんの形にした、特徴あるメニューだといえる。



大町月見
富山県富山市大町1区西部228─8
電話 076─424─3200

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