《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

郷土蕎麦をベースに
個性の蕎麦を作る


第六十八回 片山虎之介

新潟県魚沼地方の郷土蕎麦「へぎ蕎麦」は、つるりと滑らかな独特の食感を持つことで知られている。この特徴は、海藻の「布海苔(ふのり)」を、蕎麦のつなぎとして利用していることが理由だ。

魚沼地方一帯は、古くから小千谷縮など、織物が特産品であった。その織物に糊付けするときに使ったのが、海藻の布海苔だ。多くの民家が織物を副業としていたため、布海苔が各家にあった。それがいつしか、蕎麦のつなぎとして利用されるようになったのだと言われている。

『越後へぎそば処 粋や』は新潟市内で、へぎ蕎麦を供する蕎麦店だ。

創業は平成25年の新しい店だが、主人の高橋清志さんは、これまで25年間、蕎麦の仕事に携わってきている。へぎ蕎麦のことは知り抜いたスペシャリストなのだ。

高橋さんは、 『越後へぎそば処 粋や』を開店するにあたり、自分はなぜ、この店を始めるのかを考えた。そして、たどり着いた答えは、この店に来てくれたお客さんが、心も体も元気になって帰っていただけるような店にしたいということだった。

メニュー然り、店の雰囲気然り、接客然り。店のすべてが、人に元気を届けられるような店にしようと心に決めて、創業したという。

だから、店で供するへぎ蕎麦は、個性的だ。いわゆる伝統的な郷土蕎麦とは、少々異なる、『越後へぎそば処 粋や』にしかない蕎麦である。

実際に、その工程を見せていただいた。

へぎ蕎麦を作るには力が要るため、手打ちよりも機械を使ったほうが効率が良いと言われている。特にお客さんが多く来てくれるようになると、手打ちで対応するのは、大変な労力を要する。

高橋さんは、蕎麦粉と布海苔を合わせて、捏ねる作業はミキサーを使う。それを製麺機にかけて延し、細長い生地にする。

生地にした段階で、高橋さんは、他の蕎麦店ではしていない、一手間をかける。

この一手間が、簡単ではない。8sの粉(粉とつなぎ)を打つのに、2時間もかかるほど、大変な一手間なのである。

高橋さんは、折角、布海苔を使うのだから、蕎麦に布海苔が入っていることを、お客さんに感じてもらえるような蕎麦にしたいと考えた。

そのために、布海苔を最初に煮る段階でコントロールし、布海苔の形が残るように仕上げた。それを蕎麦粉と合わせると、生地になったときに、ちょうど、普通の蕎麦でいうと、麺に「ホシ」が表れるような感じで、布海苔が点々と緑色の「ホシ」を作る。このホシには大小のものがあり、小さなものはいいのだが、大きなホシは、蕎麦が切れる原因になってしまう。そこで高橋さんは、生地の段階で、自ら道具を持って、大きめのホシを削り取る作業をするのだ。

この作業に時間がかかる。しかし、高橋さんが目指す「へぎ蕎麦」を作るためには、どうしても欠かせない作業なのだ。

大きなホシを取り終えた生地を、機械にかけて麺線に切ると、『越後へぎそば処 粋や』のへぎ蕎麦の完成だ。上品な緑色の美しい蕎麦が、優しい曲線を見せて器に並ぶ。

この蕎麦を楽しみに、店には多くの客が訪れる。その半数近くが女性だというから、蕎麦店にしては、女性の比率が高い店だといえるだろう。

高橋さんは、自分の店にしかない独自の蕎麦を作るために、いろいろな工夫を重ねている。へぎ蕎麦は、確かにこの地方の郷土蕎麦だが、高橋さんは、それをベースにして、現代のお客さんが喜んでくれるような、時代の要求に応えられる蕎麦を作り出したいと、日々、努力を重ねているのである。



越後へぎそば処 粋や
新潟県新潟市中央区上近江4─12─20
DeKKY401 1F
電話 025─282─7288

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