《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

厳選した食材が店の個性を作る


第七十四回 片山虎之介

蕎麦店には個性が必要だ。他とは違う、その店だけの魅力があるからこそ、客は足を運んでくれる。

昨今は、蕎麦店のライバルは同業の蕎麦店ではなく、イタリアンやフレンチの店、またハンバーガーなどファストフード店とも競争しなくてはならない。

さらにコンビニエンスストアにも蕎麦関係の商品が充実してきて、しかも24時間営業。コンビニの存在も軽視できない。

蕎麦店は、例えば昼時、イタリアン、フレンチ、ファストフード店、コンビニの前を素通りさせて、客に、自分の店まで足を運んでもらわなくてはならない。これは、考えてみれば、大変なことである。一体、どうすれば、そんなことができるのだろうか。

答えは、はっきりしている。

何よりも重要なのは、美味しい蕎麦を出すことだ。

他の店にはない魅力的なメニュー。「あの店の、あの蕎麦が、どうしても食べたい。イタリアンのスパゲティーの前を素通りして、今日は蕎麦屋に行こう」と、客に思ってもらえるような蕎麦が必要なのだ。

しかし、蕎麦店の主力商品である「蕎麦切り」は、ソバの実を材料にして麺線に打つという、一定の様式の中で成立する食べ物だ。そこから大きく外れるわけにはいかない。この制約がある中で、他の店を引き離す魅力や個性を打ち出すには、どうしたら良いのだろうか。

茨城県ひたちなか市にある『手打そば 満志粉』では、食材を厳しく選び、それぞれの食材に備わっている魅力を引き出してメニューに生かすことで、店の個性を作り出すことに成功している。

具体的な実例を見てみよう。

まず、最も重要な蕎麦の材料だが、『手打そば 満志粉』では、地元茨城県産の「常陸秋そば」を主力に使っている。栽培農家から直接買い付けて、質の良い材料を揃えることに留意している。

それを主人・益子正巳さんは、自分で磨きをかけるところから始まって、石臼を使って製粉までする。石臼は、必要な蕎麦粉の粒度によって、3台を使い分ける。その粉を手打ちし、太打ち、細打ち、生粉打ちなど、数種類の蕎麦を作る。

益子さんに、ここまで手をかける理由を聞いた。

「お客様に、美味しかったと喜んでいただき、何度もお越しいただきたいからです。蕎麦屋は、品物を仕入れて、そのまま売って仕事になるという商売ではありません。ダイヤの原石のような材料を仕入れて、それを磨き上げ、自分の店のスタイルの商品を作り出して提供する仕事だと思うのです。とてもデリケートな調節が必要で、体力的にも楽ではありません」

しかし、手間はかかるが、それによって自分の納得できる蕎麦ができる。そこのところが楽しくて、作業も苦にならないのだと、益子さんは笑う。

蕎麦を引き立てる脇役も重要だ。

人気メニューのひとつ、「奥久慈しゃもつけ」に使う軍鶏しゃもは、茨城県の生産農家が育てた軍鶏の雌だけを使う。雌の肉は小振りだが、脂が適度に付いていて、食感も頃合いなので、益子さんのイメージにぴったり合った味が出せるのだという。

手をかけて蕎麦を自家製粉するように、蕎麦と合わせる食材も吟味して、『手打そば 満志粉』の個性の味に仕上げていく。

店が繁盛する秘訣は、ここにある。


手打そば 満志粉
茨城県ひたちなか市高野3267
電話 029─285─0031

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