《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

生粉打ちの食味をあげる
蕎麦打ち技術


第七十九回 片山虎之介

昭和天皇が昭和22年、福井県に行幸された際、蕎麦を召し上がり、東京にお帰りになられてからも時々、「あの越前の蕎麦は、美味しかった」とおっしゃったという。そこから「越前の蕎麦」の名が付けられた。蕎麦好きなら知っている、有名なエピソードだ。

昭和天皇が召し上がった蕎麦は福井在来であった。福井は在来種の栽培が全県下に広がっている「在来種そば王国」である。

在来種の蕎麦は、栽培や収穫後の取り扱いに高い技術を要するため、全国生産量は国内全量 の3分の1程度しかない。しかし風味の良さには定評があり、扱いが難しいにもかかわらず、食味を優先する蕎麦職人から絶大な支持を得ている。

この福井の在来種を使い、福井伝統の「一本棒・丸延し」の技で蕎麦を打って供する店が『やす竹』だ。

二代目当主の北谷敏一さんは、伝統的な一本棒の技と、三本棒の打ち方を、目的に応じて使い分ける蕎麦打ちの名手だ。

北谷さんは一本棒の打ち方について、次のように言う。

 「一本棒で打つと、蕎麦のもちもち感が引き出され、やさしい食感でありながらつながりの良い麺になります。十割蕎麦とか、越前おろし蕎麦のように、噛み心地の良さが美味しさにつながる蕎麦には欠かせない技術だと思います」

三本棒の打ち方は、効率良く、たくさんの蕎麦を打つには優れた技術なので、一本棒、三本棒を使い分けることで蕎麦に多彩な美味しさを付与することができ、メニューにも幅が出るという。

福井在来は貴重な蕎麦なので、栽培地域によっては県外にほとんど流通しないものもある。

 「その点、私どもの店は、良質な福井在来を思う存分使うことができて、蕎麦屋冥利につきると思います」

食味の良さを追求する蕎麦職人ならではのコメントだ。『やす竹』の蕎麦の美味しさは口コミで広がり、人気雑誌や様々なメディアに紹介されて注目を集めている。

昭和天皇が行幸された際、召し上がった蕎麦も、一本棒・丸延しで打たれたものだった。

福井では、昔から伝わってきたこの打ち方が、いつの間にか少なくなってしまった。

越前の蕎麦の原点ともいえる伝統の打ち方を、もう一度見直して地元に広めようと、今年の 「2016ふくい新そばまつり」では、プロ・アマを問わない「一本棒・丸延し」の認定会が開かれる。また、それに先立ち10月には、地元の蕎麦屋さんなどを対象に一本棒の打ち方の勉強会も開催される予定だ。


やす竹
福井県福井市文京7─9─35
電話 0776─26─7281

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