《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

善光寺の門前蕎麦は
手打ちが中心


第八十一回 片山虎之介

長野県といえば、信州蕎麦の名前で知られる蕎麦処だ。県内のいたるところで「そば」の文字が書かれた看板を目にする。

その信州でも際立って名高い蕎麦といえば、善光寺の門前蕎麦だろう。全国から訪れた参拝客は、信州蕎麦を楽しみに来る人が多い。

善光寺の参道に伸びる仲見世通りの、中ほどにあるのが『丸清』だ。石臼挽き蕎麦とソース カツ丼の店として人気がある。

一番人気のメニューは「丸清弁当」。蕎麦とソースカツ丼をセットにしたもので、ボリュー ムもあり、味も良いことから『丸清』の看板メニューとなっている。

『丸清』のソースカツ丼の歴史は古く、長野県内の某市がソースカツ丼で地域起こしをしようと計画した際、『丸清』に研修に来たこともあるという。

蕎麦との組み合わせのほかに、単品のソースカツ丼も、もちろんある。さらにはカレーと組み合わせた「アイノコ」という名のメニューも人気が高い。

 しかし、店の柱になるのは、言うまでもなく蕎麦だ。すべての蕎麦は、手打ち。善光寺界隈の蕎麦店では、今も手打ちが当たり前だという。

蕎麦を味わうと、しっかりした蕎麦の味と、適度な歯応え、喉越しの滑らかさを備えた見事 な仕上がりだ。信州蕎麦の名前を支える、立派な一枚だと思う。

主人の松澤孝憲さんは『丸清』二代目当主。初代からこの店を継承するに至った経緯を次のように語る。

「私どもの店は、戦前は善光寺さんの裏で、料理屋としてお客様をお迎えしていました。で すからもともとご飯ものは得意だったのです。この場所に移転してから蕎麦の人気が高くなってきて、現在のメニュー構成になりました。私が子供のころ、父親は、当時まだ珍しかったローストチキンや、グラタン、ピザなどを作って食べさせてくれました。それで料理の面白さに開眼し、いつの間にか自然に店を継ごうという気持ちになっていました」

善光寺には、「牛に引かれて善光寺まいり」という言葉がある。昔、信仰心のなかった女性が、観音菩薩の化身である牛の角にからまった布を取り戻すために、逃げる牛を追いかけて善光寺にたどり着き、信仰心を得たという説話だ。

「蕎麦にひかれて善光寺まいり」という言葉こそないが、中にはそういう人もいるかもしれない。

牛ならぬ蕎麦の魅力にひかれて善光寺に参拝する人にとっては、ここに導いてくれた「蕎麦」は、ありがたい観音菩薩の化身と言えるのかもしれない。


丸清
長野県長野市元善町486
電話 026─232─5776

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