《連載》虎視眈々 片山虎之助の眼

日本麺類業団体連合会が発行する冊子『麺』の随筆です。

12ヶ月の月替わり蕎麦


第八十四回 片山虎之介

食いだおれの町大阪の飲食店が立ち並ぶ、道頓堀沿いの通りに、『道頓堀 今井本店』は、ある。

道頓堀通りを歩いて驚いた。道を埋めて行き交う人々の多くが、中国からの観光客なのだ。通りのあちこちに見られる看板などにも、中国語が踊っている。何年か前に訪ねたときとは、まるで別の町のような佇まいを見せていた。

そんな通りの中程に、店頭に柳を揺らす、落ち着いた雰囲気の『道頓堀 今井本店』を見出した。ほっと気持ちが和む気がした。

同店の創業は、昭和21年。70年に及ぶ歴史を持つ老舗だ。そばもうどんも商うが、大阪はうどん好きの人が多いため、店の売り上げの8割を占めるのは、うどんだという。

『道頓堀 今井本店』のうどんが人気を集める理由を、三代目当主の今井徹さんは、次のように語る。

「讃岐うどんをお造りにたとえるとしたら、大阪のうどんは、煮物だということができます。讃岐うどんは、うどんに生醤油をかけただけとか、シンプルな素材の味を楽しむ傾向があります。それに対して私どものうどんは、麺に出汁がのらないといけないのです。出汁は昆布やうるめを使い、手をかけて作っています。出汁と、もちもちしたうどんが一体になった美味しさが、大阪のうどんであり、私どもの店の味なのです」

うどんと出汁と他の食材が調和して、溶け合ったうまさを楽しむのだから、大阪のうどんは煮物の美味しさに通じる味わいなのだという。

同店には、うどんや蕎麦を使った独特なオリジナルメニューがたくさんある。

1月から12月まで月替わりで供されるメニューは、当主の今井さんや、先代が考案したものだ。

一部を記すと、1月は海老しんじょに鴨ロースなどを使った「新春寿そば」。2月は擂り下ろしたかぶらあんや、焼き穴子を使った「みぞれあんそば」。3月は春の訪れを告げる菜の花を、ごまだれの汁で味わう「菜の花そば」。4月はくり抜いた筍に蕎麦を盛った「筍そば」。5月は鯛のうしお汁に蕎麦を合わせた「うしおそば」。6月は茶蕎麦と白い蕎麦を裏表に合わせて打った「柳そば」。そして7月は、活ハモを使った冷たい蕎麦「白波そば」など、魅力的なメニューが目白押しだ。

取材した月の月替わりメニューは、表紙に掲載している「みぞれあんそば」だった。

食せば、真昆布などを使い独自の方法でとった出汁は、見事に麺にのり、味と食感が万華鏡の絵模様のように、口中でいく通りにも変わっていく。そのうまさに驚嘆する。

『道頓堀 今井本店』の多彩な魅力を備えたメニューを目の前にしたなら、あれもこれも食べたくなって、この店だけで食いだおれてしまうかもしれない。


道頓堀 今井本店
大阪府大阪市中央区道頓堀1─7─22
電話 06─6211─0319

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