そばの散歩道

お店紹介

各地の名店

祖母の戒名を
屋号にした理由

 『花月庵れん月』という屋号の由来をお聞きしたところ、意外な返事が返ってきた。
亡くなったおばあさんの戒名が「れん月」であり、それを屋号に使ったのだという。
三代目当主、飯塚龍彦さんは言う。
「戒名をつけていただいたお坊さんのお話では、れんというのは、暖簾のことだそうです。月という字は女性を表していて、暖簾の向こうに女性がいるというような意味なんだそうです。それをうかがったとき、きれいな戒名だなあと思いました」

店舗は、普通の民家を、そのまま店舗に改造した感じで、親しみやすさが特徴。近所の家に遊びにきた雰囲気で、ゆっくりくつろげる。
 飯塚さんの家は蕎麦店だったため、両親は店にかかりきりで、子供のころはいつも、おばあさんに面倒をみてもらっていた。
 だから自然と、おばあちゃん子になり、頼りにする気持ちが強かったという。
 飯塚さんが店をまかされるようになっても、おばあさんは元気で、店を手伝ってくれた。
 飯塚さんはいつも、「おばあちゃん、死んでも店を手伝ってね」と、冗談を言って笑っていたという。
 だから、戒名をきれいだなと思ったとき、それを屋号にすることに迷いはなかった。いつもおばあさんが店を守ってくれているようで、安心するのだという。
自然薯を使ったつけとろだが、自然薯を綿菓子のようにふわふわにしてある。この食感が忘れられないというリピーターが多い。
鴨せいろに、塩焼きにした鴨肉をつけた「鴨焼き付き鴨せいろ」。鴨汁にはキノコがたくさん入っていて、それが味の良さにつながっている。
 『花月庵れん月』は、そんな家族の、あたたかい心の結びつきを感じさせる店である。
 店舗は、一見、普通の民家のような作りで、店内も、畳の部屋にテーブルや椅子を配置してある。いわゆる自宅蕎麦屋といった雰囲気の蕎麦店だ。
 両親が経営していたころは、出前もする普通の蕎麦店だったが、飯塚さんにバトンタッチしてからは、祖母が住んでいた店の一階を改築して店にした。蕎麦打ちを親戚の蕎麦店に教えてもらい、手打ち蕎麦屋としてスタートしたのだという。
 畳の部屋にテーブルを配置した店は、ときどきあるが、なんだか不思議に、落ち着くものだと、私などは感じている。
 思うことは、皆、一緒なのかもしれない。『花月庵れん月』には、家族連れの客が多く、結構長居して、雑談をしながら、のんびり過ごす人が多いという。
 それができるのも、店の魅力であり、お客を惹きつける大切な個性かもしれない。
上等の海苔を乗せて、香りを楽しむ粋な蕎麦「花まき」。香りを逃がさないように、提供する際は蓋をして出す。
「しらす丼」と「天せいろ」を一緒に注文する人が多い。しらすは、季節や産地により食感が変わるのが悩みだが、自然のものなので仕方ない。
そば茶で作ったわらび餅に、きな粉のかわりに、蕎麦粉を炒って、甘くして、まぶした「そばわらび餅」。蕎麦屋ならではの甘味だ。
 人気メニューにも、特徴がある。
 ご飯のミニ丼が数種類あり、それと蕎麦との組み合わせを注文する人が多い。蕎麦も食べたいが、ご飯もちょっと味わいたいというのは、ご飯で育った日本人の、偽らざる気持ちだろう。求められるものを、気取らずにきちんと用意するのは、やはり家庭的な雰囲気を醸し出すのに、役立っている気がする。
 そんなこんなで『花月庵れん月』は、アットホームな居心地の良さが特徴の蕎麦店なのだが、蕎麦の味は、もちろん良い。
 しっかりした味の、常陸秋そばや福井の在来種を使い、自家製粉することで風味を向上させている。
 蕎麦つゆは、風味の強い蕎麦とバランスのとれた強い味で、完成度が高い。
 蕎麦の周辺の、ちょっとした料理にも、味付けのセンスの良さが現れている。どの料理も、ていねいに仕事がされて、細部にまでこまやかな心遣いが感じられる。
 家族経営の店の魅力というのは、つまるところ、良い意味で「おふくろの味」になるのだと、納得させてくれる蕎麦店である。

花月庵れん月

千葉県千葉市中央区千葉寺町207-11

043-261-3202