そばの散歩道

そばのあいうえお

ぬき

昔から、麺類店と酒とは切っても切れない縁があるが、いわゆる「ぬき」とは、種もののそばやうどんを抜いて、具と汁だけをお客に供する麺類店ならではの酒肴である。例えば、天ぷらそばのそばを抜いて、タネの天ぷらと汁だけを残したものを「天ぬき」または「天すい」といい、同様に、おかめそばのそばを抜いたものを「おかすい」や「おかめすい」、「鴨南蛮」なら「鴨すい」という。

ちなみに、麺類店の「甘汁」は、そばを入れて薄くなることを前提に辛めに作ってあるので、ぬきにする場合は、少しダシで伸ばす必要があった。関西ではぬきのことを「かまくら」(素は鎌倉という洒落)といい、これはうどん店の品書きにもあったらしい。一般に、麺類店の酒肴の特徴は、かまぼこ、海老、鶏肉、鴨肉、ネギ、玉子など普段からよく使う素材を、甘汁や辛汁、かえしといった調味料で、味付けをすることによって独自の味を出してきたことで、あっさりした味のものが多いことと、酒にマッチするように工夫されている点にある。酒肴としてポピュラーなものは、かまぼこを切って、おろしワサビを付けた「板わさ」や山芋のとろろにおろしワサビを青海苔を添えた「わさび芋」、玉子焼きを辛汁で伸ばした「だし巻き玉子」、汁とかえしで煮あげた「野菜の煮しめ」、「きんぴらごぼう」などがある。

参考文献『蕎麦辞典』『そば・うどん百味百題』