そばの散歩道

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新たな店づくりに

 千葉県匝瑳市『吾妻庵本店』を訪れると、店構えの大きさに圧倒される。4代目店主・石井幸成さんが、1995(平成7年)に、修業先で学んだ理想を実現しようと新築したものだ。『吾妻庵』の屋号は、初代・石井卯之助さんが千葉県銚子市に店を構えていた『吾妻庵』で修業したことに因んでいる。この時一緒に修業していたのが、茨城県土浦市の老舗として知られる『吾妻庵総本店』の青柳氏だったという。銚子の店が閉店したため、それぞれ「本店」「総本店」を名乗るようになった。『吾妻庵本店』の創業は1896(明治29)年、もうすぐ創業130年を迎えようという老舗そば店だ。

『吾妻庵本店』は、3階建の大型店舗。1階は通常席、2階は50名収容の宴会場、3階が自宅になっている。1階の店内からは庭を眺めることができる。
 石井幸成さんは、栃木県足利市『一茶庵本店』の片倉康雄氏に2年間師事した。この経験が石井さんに大きな影響を与えた。「片倉先生はそばだけではなく、芸術など様々な分野に造詣が深く、多くのことを学びました。当時はまだ出前も多い、一般的なそば店でしたが、学んだことをいつかは実現したいと、店に戻りました」と話す。
 父親(庸夫さん)から店を受け継ぎ、いよいよ自らの理想とする店づくりができる時期が来た。店の新築とともに出前をやめ、そばは北海道江丹別産そば粉を使用した手打ちに切り替え、品揃えも改めた。当然のことながら客層も大幅に変わり、宴会の予約も増加した。「新築当時は月1日の休みで、昼から夜まで休みなく営業していました」というほど盛況だった。新店舗の工事には半年ほどかかり、その間に石井さんは、他のそば店を食べ歩いて勉強を怠らなかった。
3種類のそばを1度に楽しめる「三色せいろ」。左から通常提供のそば、季節の代わりそば(取材時は桜海老切り)、太打ちの田舎そば。
軽めの衣で揚げた「ごぼうのかきあげ」。
人気の酒肴の1つ、「自家製さつまあげ」。
 季節感が失われて久しい昨今、季節毎の食材を取り入れる代わりそばは、そば店ならではの季節メニューといえる。「茶そば」「けし切り」、自宅で採れるゆずを使用した「青ゆず切り」「ゆず切り」など、修業先で学んだ技術を活かして提供している。 種物も「竹の子そば」「あさりそば」「かきそば」など季節感溢れる品が四季折々に登場する。
 そして、店には5代目・石井康仁さんが入り、石井幸成さんの志を受け継いで日々営業に励む。「新型コロナウィルスの影響で予約がキャンセルになるなど、厳しい現状ですが、ご先祖様がこの店を残してくれたので、息子と一緒に頑張って乗り切ってゆきたいですね」と笑顔で話してくれた。

吾妻庵本店

千葉県匝瑳市八日市場イ2925

0479-72-0107