そばの散歩道

お店紹介

各地の名店

母親が打っていたそばが
店の個性を生み出す源泉に

 江戸川区は東京都の東端に位置し、江戸川を挟んで対岸は千葉県になる。『矢打』はかつての江戸川本流であった旧江戸川近くに店を構える手打ちそば店だ。 
店主・青木稔さんは足立区のそば店で修業し、店で知り合った秀子さんと結婚、1982(昭和57)年に独立、1988(昭和63)年に現在地へ移転した。 
 「独立する時に自分たち独自のスタイルでやりたいという気持ちがありました。その原点は母が打っていたそばなのです。父の実家である栃木県足利市でそば打ちを覚えて、家ではちゃぶ台にそばの生地を広げて打っていました」と話す。『矢打』は年越しそばの営業も独特だ。大晦日の数日前に店舗での営業は終了、大晦日当日は予約の持ち帰りのみを販売する。移転当初は、店内営業もしていたが、お客様に迷惑がかかるので現在のスタイルにした。地方発送を含め2,000食のそばが出る。

『矢打』の店舗内外観。駐車場も備えていて、『矢打』のそばを求めて遠方からもお客様がやって来る。
『矢打』イコール「鴨汁そば」といわれるほど、店の顔となっている品だ。鴨の味が出た濃いめのつゆは、太打ちのそばによく絡む。
 青木さんは店舗の移転を機に売上の8割を占めていた出前をやめて手打ちに切り替え、品数も絞って現在の営業スタイルを確立した。それが現在提供されている太打ちの二八そばだ。北海道・山形県・秋田県・栃木県などその時々で品質の良い産地の丸抜きを仕入れ(取材時は栃木県小山市産)、自家製紛した石臼挽きのそば粉を使い打たれる『矢打』のそばは、太さは田舎そばのようだが、滑らかな仕上がりになっている。この"江戸川発『矢打』流”といえる独自のそばは、年齢や性別を問わず多くのお客様に喜ばれる存在なのだ。また、自慢のそばを心ゆくまで味わってもらいたいと、普通盛りでも450g、さらに中(750g)、中増し(1kg)と3段階で注文することができる。
 そば・うどんの品書きは冷たいそば5種類、温かいそば5種類とシンプルな構成だが、中でも『矢打』の看板商品が「鴨汁」だ。そばの注文のほとんどが「鴨汁」で占められている。つゆは2種類の醤油を使い、濃厚でコクのある味に仕上げることで、太打ちのそばに負けず、よくなじむ味になっている。鴨にもこだわり、フランス原産バルバリー種の鴨を青森県で飼育した、津軽鴨を使用している。
一品料理の人気メニュー「ちくわ揚げ」。そばと一緒に注文されるお客様も多い。
「辛味大根おろしそば」は、秋田県から取り寄せる辛味大根を使用している。辛味よりも旨みが強いのが特徴だ。
つゆとそばをストレートに味わう「もりそば」は、隠れたファンもいる。
 『矢打』は駅から離れた住宅街に立地し、決して利便性の良い場所ではないが、昼時は行列ができるほどだ。この繁盛を生み出しているのは、青木さんが母親から受け継いだ店独自のそばと秀子さんを中心とする心のこもった接客だ。秀子さんはお客様に平等に接するように心がけているという。また、個人経営の飲食店の後継者難が叫ばれて久しいが、青木さんの子息である佑季さん・宏年さんは2名とも店に入り、ほとんどの仕事を任せている。親から子へ、子から孫へと受け継がれた『矢打』のそば。1度食べたら忘れられないその個性と、落ち着ける店の雰囲気がお客様の心をつかんでいる。

矢打

東京都江戸川区江戸川5-23-39

03-3687-2293