そばの散歩道

そばのあいうえお

たぬき

天ぷらの「揚玉」をかけそばやうどんに入れた「たぬき」の名称が、一般に普及したのは戦後のことらしい。例えば、大正時代の第一次世界大戦のころは、うどんに揚げ玉を入れたメニューのことを「バクダン」と呼んだ。これは揚げ玉を麺に乗せるとバラバラと飛び散る様子から生まれた名前である。また「たぬき」は、地域によって「ハイカラ」とも呼ばれ、「ハイカラそば」や「ハイカラうどん」という名称が現在も残っている。たぬきは化けるということから「お化けそば」とも呼ばれた。

ところで「たぬき」の由来であるが、揚げ玉とネギ以外タネらしいものが入っていないことから、「たねぬき」と呼ばれたものが「たぬき」になったという説や、見た目のコッテリとした色合いや、味付けからそう呼ばれたという説もある。

「たぬき」に対して、油揚げを薄甘く煮て入れた種ものを「きつね」という。「きつね」は関西がルーツというイメージに対して、油揚げを種に使うそばは、文献的に江戸のほうが古いという説もある。稲荷神社の初午の祭りに油揚げを供える風習から、お稲荷様の使いである狐の好物・油揚げを入れた麺類をこう呼んだそうである。

昔、関西鉄道の葛葉の地の近くに白狐の住む「信田の森」があったため、関西では「きつね」を「しのだ」と呼び、「信田」または「篠田」とも書く。大阪などではきつねそばのことは「たぬき」と呼び、京都ではきつねのあんかけを「たぬき」と呼んだ。また、場所によっては「けつね」「稲荷そば」「稲荷うどん」「志乃田」とも表記する。

参考文献『そばやのはなし』『蕎麦辞典』