そばの散歩道

そばのあいうえお

出前(でまえ)

最近では、家に居ながら電話で料理を注文し、運んでもらうシステムを「デリバリー」と呼び、店屋物をバイクなどで宅配してもらうというイメージがあるが、このデリバリーの元祖といえば、やはり麺類店の「出前」である。文献によると出前の登場は江戸期の亭保(一七一六~一七三五)年間というのが定説で、八代将軍吉宗の時代である。

「そば切りゆでて、紅がら塗りの桶に入れ、汁を徳利に入れて添え来る」と紹介されている出前の仕事は、いわゆる「外番」の役割で、この職人を「かつぎ」と称した。

「出前姿」のスタイルとして典型的なものは、歌舞伎一八番の「助六」に登場する「福山のかつぎ」で、豆しぼりの手ぬぐいで向こう鉢巻を締め、赤い腹がけに印半纒、素足に草履ぱきで、天秤棒の先に出前箱をつけ、花街などにそばを出前した。時代が下って明治・大正のころになると、「出前膳」という蒸篭やどんぶりを載せて運ぶ平盆が普及し、これを「手持ち」や「肩持ち」というやり方で、蒸篭などを三〇、四〇とうず高く積み上げ、自転車に片手ハンドルで街中を駆け巡るという職人技が一種の風俗として定着していた。戦後、昭和も三〇年代に入ると、交通量の増加もあって事故が増えた。そこで、出前盆の上に載せた料理を早く安全に運べるように現在多く使われている「出前機(正式名称は出前品運搬機)が考案され、これをバイクや自転車に取り付けて出前をするのが一般的になったわけである。

参考文献『蕎麦辞典』『そば・うどん百味百題』