そばの散歩道

麺類雑学事典

煮込みうどん

当たり前のことだが、煮込みうどんといっても、格別決まりがあるわけではない。要はうどんを温かく煮込んだ麺料理ということであり、その意味では、鍋焼きうどんやおじやうどん(うどんと雑炊を同じ鍋で煮込む)なども、煮込みうどんのひとつということになる。

では、うどんを煮込むという食べ方はいつ頃から始まったのか。実はよくわかっていない。江戸時代初期、寛永20年(1643)刊の『料理物語』には、素麺を味噌味の汁で煮るにゅうめんが紹介されているものの、煮込みうどんには触れていない。当時のうどんは必ず温めて食べるもの(冷やして食べるのは切り麦)だったとされているが、同じ小麦麺でも、にゅうめんのように煮込むのではなく、味噌味の温かい汁につけて食べたようである。

ところで、わが国では小麦麺に塩を使うことが古代から知られており、『料理物語』もうどんづくりでは塩加減が大切なことを述べている。塩加減は現在でもうどんづくりの要諦だが、うどんづくりには塩が絶対に必要というわけではない。実際、各地の伝統的な郷土麺を見ると、塩を使わないでつくるうどんが数多く残されている。
それらの郷土麺はなぜ塩を使わないのか。この理由もまた不明なのだが、比較的説得力があると思われるのは、生うどんを茹でずに、そのまま煮込みうどんにして食べるからという説だろう。

一般に、うどんづくりではかなりの塩が使われる。手打ちの場合で小麦粉の重さの4~6%程度、機械製麺の場合は2~4%が標準とされる。しかし、これらの塩分の大半は、茹でている間に茹で湯の中に溶け出してしまう。うどんの状態や茹で時間にもよるが、80~90%の塩分は溶け出しているという。

したがって、減塩が気になる人でも安心してうどんを食べられるわけだが、茹でていない生うどんをそのまま煮込むということは、汁の中にうどんの塩分が溶け出してしまうことを意味する。つまり、煮汁が塩辛くなりすぎないように、塩を加えずにうどんを打ったというわけだ。

また、昔は塩が貴重品だったため、日常食であるうどんになど使えなかったという説もあるが、真偽のほどは不明である。

塩を加えずに打ったうどんを生のまま、茹でずに使う煮込みうどんとしては、名古屋の味噌煮込みうどんがよく知られている。この地方の名物八丁味噌仕立ての汁で煮込むもので、生煮えのような硬い食感も特徴だ。もとは家庭料理だったが、遅くも大正時代の頃には地元のうどん店で売られていたという。

地方によらず、そもそも寒い季節に温かい汁で煮込んだうどんを食べるというのは、やはり家庭での食べ方が基本にあったと考えられる。煮込みうどんという名称にどこか温かみを感じるのも、そのせいかもしれない。