そばの散歩道

お店紹介

各地の名店

経営者としての決意が
歴史の新たな歩みを作る

 都内を中心にのれん分けしている『滝乃家』の本店である『滝乃家本店』は、福井県出身の初代・安岡豊さんが文京区で創業した店が始まりだ。その後、1950(昭和25)年に当地に移転した。安岡紳二郎さんは3代目当主となる。「父(安岡治夫さん)は組合に協力する大切さをのれん会の仲間にも話していました」と話すように、安岡さんは東京都組合の理事を務め、組合で取り組む「東京二八そば」のブランド化に尽力している。

新築して5年になる『滝乃家本店』の店舗。店内には仕切りがあり、客席の一部は個室として利用することもできる。床にはイタリアで作られたタイルを使用するなど、安岡さんのこだわりを随所に見ることができる。改築前の店舗で使用していた品書きはインテリアとして再利用している。
 『滝乃家本店』が店を構える東京都荒川区は、下町という立地で、お客様の価格感度は高い。こうした厳しい条件下にあっても、安岡さんの経営方針は専門店として恥ずかしくないものを提供するということだ。そばは国産そば粉を使った二八そば、食材も築地から仕入れるマグロをはじめ、できるだけ良いものを提供したいという姿勢がうかがえる。
 また、時代の変化に応じて夜の営業を強化、他の飲食店を研究し、酒類や酒肴の種類を増やした。酒類+酒肴、人数分の酒肴をセットした「夜のセットメニュー」も好評だ。価格的・内容的にお得感があり、このセットメニューに追加の注文や、最後に食事をして客単価を上昇させる工夫をしている。
和牛・黒豚・イベリコ豚の3種類から選べる「ごまラーつけめん」はボリュームもあり人気のそばメニュー。
ガレットも提供している。写真は「鴨生ハムとチーズのガレット」。他に「肉みそとチーズのガレット」「そばジェラートとコーンフレークのキャラメルソース」2種類を用意する。
そば店らしい締めの一品「そばの実雑炊」。他に「天茶漬け」もある。
 新たな時代に向けた『滝乃家本店』の店づくりの集大成が店舗の完全新築だった。2015(平成27)に完成した新店舗は、新たな決意から生まれたものでもあった。「以前の店舗を閉めた時も売上げの半分は出前でした。しかし、今後の経営を見据えて自分としては思い切って出前をやめ、店売り一本に絞ろうと決意しました。昔からのお客様に心配されたり、怒られたりもしましたが、新しいお客様も増え、かつて大量の出前をさばくために広くとっていた厨房もコンパクト化し、動線が短くなり、作業効率が上がりました」と安岡さんは話す。
 売上げの半分を占めるものをやめるという決断は並大抵のものではない。しかし、時代の大きな変化に合わせた経営者の決断が、長年続く老舗に必要なことも確かだ。安岡さんの大きな決断があったからこそ、『滝乃家本店』が今も順調な経営をしているといえるのだ。
 取材の最後に、後継者の話を聞くと「子供に店を継ぐことを強制しようとは思いません。子供が継ぎたいと思う店を経営すること、商売を楽しいと思ってもらえること、そうして自然に店を継いでくれれば良いと考えています」と、自身の経営に対する姿勢が店の将来につながるというのが安岡さんの思いだ。

滝乃家本店

東京都荒川区東尾久4-27-7

03-3893-8801